島原騒動
「土方さん、片付いたんですか?」
音共に部屋へと戻って来た土方に沖田は声を掛けた。
「ああ、適当にな」
土方は千鶴の横を擦り抜け、元居た場所へと腰を降ろした。
千鶴は何も云わない土方に戸惑いながら、どうするか悩む。
このまま土方が何も云わないのならばこのまま部屋を出ても大丈夫なのかもしれない。
そんな事を考えていたら。
「おい」
「!」
土方が呼ぶ声が聞こえた。
千鶴は丸まっていた背をぴんと張り、びくっとした。
背筋に汗が伝うのが解る。
「そこに正座しろ」
土方は自分の正面に座れと云って来ている。
千鶴には『そこに』と云われても背を向けているので解らないが、それでも何となく理解する。
土方達は緩やかな円を描く様に腰を降ろしていた。
土方の示す「そこに」とは、無論円の中心な訳で。
そんなの無理っ。
千鶴は勢い良く立ち上がり、問答無用で部屋を出ようとした。
が。
「っ!!」
バタンっ!ー
足が、、、、、、。
千鶴は足が痺れてそのまま倒れ込んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・。
沖田、原田、斉藤、藤堂、永倉の五人は呆気に取られた。
その中で土方はその様子を見て溜息を吐き、立ち上がり千鶴を起したかと思うと。
「あ、あのっ」
千鶴を引きずり強制的に中心部に連れて行かれた。
「此処に座れと云っただろうが」
「・・・・・・すみません」
逃げようとした事はバレバレだった。
大人しくその場に正座をする千鶴を見て「え、千鶴?!」と藤堂は声を上げた。
「千鶴、お前なんでこんなとこに」
原田は驚きを隠せない。
「あれ、本当だ。こんな所でなにしてるの?お小遣い稼ぎ?」
沖田はにやっと笑い。
「そうなのか、千鶴ちゃん!?そんなに金に困ってたなら俺が少しだけどお小遣いを」
「そんな事有る訳ないだろう」
沖田の言葉を本気に取った永倉の言葉に斉藤は突っ込みを入れる。
「で、俺に何か云いたい事があるんじゃねえか。千鶴」
つまり何故此処にいるかを説明しろと云う事だが。
千鶴の頭の中は激しく混乱していた。
ど、ど、どどうしよう。このまま本当の事を云えばきっと協力して下さった近藤さんも怒られてしまう。でも、嘘ついた所で何ればれるに決まってる。
大体千鶴は嘘吐くのが下手だった。
それは土方に嘘を吐いた瞬間にばれる自信がある程に。
でも此処は近藤さんの為にも、何とか話しを逸らして誤摩化さないと。
だが懸命に頭を巡らせるが思い付かない。
千鶴は余りに混乱過ぎて頭が真っ白になった。
何も頭に浮かばない。
でも此処で黙り込めば土方にこれでもかと程怒られてしまう。
瞬間、ふと先ほど廊下で妓女達が話していた事が頭に過った。
千鶴は顔を土方へと向け見据える。
その様子を土方は見て、真剣な面持ちになったが。
「土方さん」
「なんだ」
「土方さんが『極度の女好き』って本当なんですか?」
その瞬間部屋の空気がぴしりと凍り付いた。