島原騒動
島原の妓楼ー
「お鶴ちゃん、これ菖蒲の間にお願いね」
「あ、はい」
肩より少し長い黒髪を高く結い上げ、沢山のきらびやかな簪を刺す。
両頬に掛かる垂らした髪。
白粉を付け桜色の紅を引く。
普通の女子は身に付ける事は出来ない様な位高価な着物。
緋色に染め上げられた生地に桜の文様が金色に光る。
まるで夕日の中散る桜ー
それを纏うのは、まだあどけなさが伺えるお鶴。
お鶴こと千鶴は今島原の一角にある青楼ー黒蝶(コクチョウ)にいた。
「お鶴ちゃん、此処にいたの?これお願いしたいんだけど」
代わる代わる違う妓女達が来ては千鶴に仕事を頼んで行く。
千鶴は形式では妓女見習いの様なもので、自ら客をとる事はなかった。
座敷に上がってもひたすら雑用、空いた器を下げたり酒を運んで来たり。
『千鶴ちゃん、聞いて欲しい事があるの』
幾日か前にお千が千鶴を訪ねて来た。
『実は、貴方のお父様の情報を持っている可能性のある者を見つけて』
『本当に?』
『そいつ、島原の妓夫をしてる見たい』
『妓夫?』
『所謂、客引きよ』
お千の話しの男はこの黒蝶にいる。
何人も妓夫は居るので、今の所どの男が手掛かりの男なのか解らない。
だが、此処に居れば自ずと判明するだろう。
「さて、と。こんな所で油売ってたら姐さん方に叱られちゃう」
千鶴は踵を返し御盆を手に階段を上がって行った。