島原騒動
千鶴がいなくなって五日が経った。
「近藤さん、あいつは一体何時戻るんだよ」
土方は近藤の正面に腰を下ろす。
「い、いや。ほら・・・千鶴君ももう少しゆっくりしたいと思うぞ、うん」
反応が明らかに可笑しい近藤。
「だが、近藤さん」
「トシ」
近藤は真剣な面持ちで土方を見遣る。
「お前達は良くやっている」
「は」
突然褒められた土方は思わず間抜けな声を上げる。
「うん、うん。良し、そんなお前達にはこれをやろう」
「いや、近藤さん。何を」
土方は思いも寄らない展開に状況が掴めない。
近藤は土方の前に布の包みを渡す。
「これで息抜きでもしてこい!」
近藤さんにそう言われ訳の解らないうちに此処にいる。
土方、沖田、斉藤、原田、永倉、藤堂が今居る場所は島原ー
「にしても、近藤さん太っ腹だよな~」
「確かに、島原で遊んでこいなんて」
浮かれ足で藤堂と永倉は先頭を歩く。
「変だ」
「大丈夫ですよ、土方さんは充分変ですから。今更、」
「俺の事じゃねえっ」
沖田が揶揄うように云うと土方は怒り睨み付ける。
「何か気掛かりな事でもあるんですか、副長」
斉藤は二人の後ろから声を掛けた。
「いや、先刻の近藤さんの態度が気になってな。どうも何か隠してる見たいなんだが」
「確かに、変だな。近藤さんが島原で遊んで来いなんて」
原田は苦笑しながら回りを見渡す。
夜とは思えない程の賑わい。
綺羅びやかな外装の建物ばかりが連なっている。
その前には客を引く男や妓女の姿。
「お~い、土方さん達なにしてんだよ!早く入ろうぜ」
藤堂が足取りの遅い後ろの四人に早くする様に促す。
「此処で良いよな!」
永倉が指差した看板を見た土方はー
「ま、待て」
珍しく吃る土方。
「何だよ、土方さん」
「・・・他にしないか」
「え~。此処一度来て見たかったんだよ」
「そうそう。此処って敷居が高くて普段は絶対来れないしさ」
藤堂と永倉は徐に店を指差し「此処が良い」と云う。
「ああ、此処って島原一敷居の高い店で有名な所だったよね」
「そうなんだよな!何でも此処の娘(コ)達はすっげえ美人揃いらしいぞ」
永倉は鼻息荒く熱弁を振るう。
思わず手に力が篭る。
「そんな事は知るか。兎に角此処は却下だ」
土方は必死だった。
『ああ、トシ』
部屋を出ようとした土方を呼び止めた。
『島原の「黒蝶」と云う店にだけは入るな』
『黒蝶?なんかあんのか』
『・・・・・・兎に角禁止だ。立ち入る事は禁止だ!』
近藤の無茶な物云いに土方は珍しく呆然とした。
『解った。だが訳を』
『トシ。これは局長命令だ』
土方はそれ以上何も云う事は出来なかった。
土方は改めて確認する。
看板には『黒蝶』と書かれている。
「俺は入るっ!」
「あ、狡い~新八さん」
土方の言葉を無視して中へ勝手に入る藤堂と永倉。
「って、お前えら!!」
「まあ、入っちゃったんだし仕方ないですよ」
沖田は意地悪い笑みを浮かべ中へ入って行く。
「土方さん、金なら心配しなくても大丈夫だろう。近藤さんかなり包んでくれてたしさ」
続いて原田も店の敷居を潜る。
「副長、一度入った店を出るのは野暮です」
斉藤は土方に遠慮がちに云い、やはり中へ入って行った。
「・・・・・・」
残された土方は無言のまま暫く立ち尽くしていた。