世界のはじまりは、
自分の肌なのに自分の知らない色をしているだなんて、そこだけ鷹臣の領土になってしまったみたいだ。見えない角度から侵食されていく不安と、根拠のない信頼による安堵と。今すぐに自分ではない何かに変えられてしまいそうな、そんな危機感を覚えるほどに鷹臣は真冬の人格形成において強烈で無視できない存在だった。
幼いころの自分は、真冬本人から見てもとんでもない馬鹿である。何故よりにもよって懐く相手が鷹臣なのだろう。鷹臣より優しい人間も好ましい人間も、はいて捨てるほどいるというのに。記憶にある限り、ろくな目にあわされなかった。
乱暴に扱われて、何度も泣かされた。構いたい時は好き勝手構うくせに、構われたくて近付けば邪険にされるなんてこと多々ある。
けれどそんな幼くて馬鹿な自分にも、今の真冬ではとうてい真似できないところがあった。
『鷹臣くん、大好き!』
震えるほど恐ろしく、誰よりも傍若無人なお隣のお兄ちゃん。
二人の関係性は年月を隔てても変わらなかったけれど、幼さにまかせた素直な好意のあらわし方はもう真冬にはできそうにない。
同じなのに同じじゃない。言葉に含まれる意味だけが、様変わりしてしまったのだ。
その差違から導き出される答えは、鷹臣の残す痕にどこか愛しさを覚える理由と多分よく似ているのだろう。