二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

百害と一利を天秤にかけ

INDEX|3ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 かちり、と。内側の音を聞いた。私の意思とは関係ないところで私の頭は回転し始める。冷たいのではなくただ乾いて平坦な眼差しがマスクの向こうから私を窺い見て、口を開きかける。
 先に言葉を発したのは私だった。

「私たち、以前にどこかでお会いしましたっけ?」

 彼は口を閉じる。私は見つめる。視覚からの情報を脳に送って検索して照合して。会ってはいないかもしれないけれど確実にどこかで見たことがある。向こうが知らなくても私の脳の中にはある。確信がある。これだけが私の取り柄だから。
「貴様は先ほど俺を見るのは初めてだと言っていただろう」
「うん、言った……けど、今改めて貴方を見てみるとなんだか見覚えがある気がして。ちょっと一回そのマスク取ってみてくれません?」
 何の気なしに放ったその一言がいつの間にやら空気を変えていた。え? なになに怒った? 怒ったの? なんで?
「俺が人前でこのマスクをはずすことは、二度とない」
 あっという間に距離を詰められていた。流石に身の危険を覚えるレベルだった。
「すみません。結構です。外さなくていいです。すみません」
 後ずさってつまづいて尻もちをつきながら口走っていた。会話、できると思ったのに。やっぱ変質者は変質者か。ていうか変質者に見覚えがある私っていったい? どこ? どこで見た顔? ひょっとして指名手配的なあれ?
 混乱した頭はそれでも速やかに答えを叩き出した。見慣れた校舎。夕日。昇降口。囁き合う女の子たちの声。
 不登校のクラスメイトの噂。
「チョウノ、コウシャク――」
 答えは見つからないほうがよかった。
 こんな圧倒的な敵意を悪意を害意を殺意を受け止めたのは初めてのことだった。
 雑草の上にへたりこんでる私の頬を裂いたのは獣のように鋭い爪だった。狂気的な双眸が見下ろす。凶器は今、首元にあてがわれていた。
 人違いじゃん。
 だってこれ、人じゃないもん。
「その名で俺を呼ぶな」
 遠のく意識の中で憎悪の声だけが響いた。
「その名で呼んでいいのは――――」

 それはまた、どっかで聞いたような名前だ、と思った。



作品名:百害と一利を天秤にかけ 作家名:綵花