所詮は子供騙しなのよ
冷たい手のひらが、ゼロスの頬をそっと包む。込められた力は弱いものであるのに、振り払えない強制力があった。
ゼロスは皮肉に歪めるのに慣れた顔を、静かに緩ませる。望まれるものを違えず差し出せるように、優しさに見せかけて眼を細めた。
「お前はマナの神子。姉さまの器の成り損ない。利用価値は高くても、存在価値のない可哀想な子。」
分相応を思い知らせてやっているつもりなのか、ミトスの柔らかな声音は賢しげで居丈高な響きがある。四千年を生きていても、それは子どもの傲慢さに似ていた。
実際、ミトスの時間は幼い子どものままとまってしまっているのかもしれない。
まったく。と、ゼロスは内心で溜め息を吐いた。勇者様が聞いて呆れる。ミトスが絶望に伏した時、同じように道を見失った男たちは、歪んでいくミトスを止めることが出来なかった。そうして、ずっとそのまま。
(よくもまあ、無駄に長く生きたもんだ。天使になるってことは、精神の時間もとめるってことか。)
男たちの逃避が今のミトスをつくり、巡り巡ってゼロスの現状に至るというなら、多少毒を吐いたってかまわないだろう。ゼロスにはその権利があるはずだ。
それにしても、可哀想だなんて、お互い様だ。ミトスがゼロスを憐れむのと同じくらいゼロスもミトスを憐れんでいる。嫌悪と自己愛をいったりきたりしながら、触れ合わずにはいられない。
喉元までせり上がる皮肉る想いは呑み込んで、ミトスの手のひらにすり寄る。冷たいはずの肌はゼロスの体温に馴染んだのか、仄かに暖かみがあるような気がした。
作品名:所詮は子供騙しなのよ 作家名:六花