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【R-15】猫を殺すはなし

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猫を殺すはなし―b―

2002年11月

 目を開けると臨也はにやりと嗤った。
 同時に静雄の手は臨也の首にかかった。

 裸の臨也と下着にワイシャツを羽織っただけの静雄。それはおかしな光景だった。
「俺は優しくなんてねえよ」
 ベッドで仰向けになる臨也の首に両手をかけて少し力をこめる。本気を出せばすぐに首の骨なんて簡単にへし折れる。
「シズちゃんが本当に消したいのは俺じゃなくて自分だろう?」
 さらに力をこめる。臨也は苦しそうに息を吐く。
「こうなったら俺はどうすることもできない。ただ最後の最後までシズちゃんに殺されない方法を考えている。だから言おう」
 ふと臨也の表情が柔らかくなった。
「好きだ」
 思わず臨也の首にかかる手の力が抜けて、静雄は天を仰いだ。
 所詮偽物なのだ。『猫』はすでに死んだのだと――そうわかっているのに。
 静雄の頬を涙が伝った。
「卑怯者」
「そうだ。俺はそんな『折原臨也』が嫌いじゃない」
 臨也の指が涙を拭う。
「君のことを嫌いで――君に嫌われる『折原臨也』が俺は嫌いじゃないんだ」
「お前がそう思いこんでるだけだろ」
「そうかもしれない。いや、そうだと思う」
「だったら何でなんだよ!」
 答えはわかっていた。
 そういう風にしか生きられないのだ。
 静雄にとって力が当たり前のように備わっているのと同じように、あらゆることを自分に思いこませて本当のことのように振る舞うのは、臨也にとって自然なことなのだ。
「シズちゃんは優しいよ。きっと誰かを殺すことなんてできない。俺以外は」
 臨也は静雄の腕をきつく掴んで体を起こす。そしてベッドの側に脱ぎ捨てられたコートから銀色に光るナイフを取り出して、滑らかな動きで静雄の腹を刺した。ほとんど刺さらないナイフを見て臨也は忌々しげに顔を歪める。
「化け物め」
 時を戻すことなんてできない。もう自分たちは終わったのだ。
「消えろ。臨也」
 ここから先、二人は永遠に反目し合う。心のどこかで互いを求めながら。

 そしてそれはずっと続いていく。
作品名:【R-15】猫を殺すはなし 作家名:冬月藍