二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

天才の受難日

INDEX|1ページ/1ページ|

 
天才だとか、そんなのって全然信じていなかった。
だいたいこの前まで、俺と同じ中坊だったわけで、そんなの努力次第でなんとでもなるって思っていた。

しかしツンツン頭のあの男のプレーは、俺をへこませるには充分だった。
ある種のコンプレックスと、届かないものを請う強かに熱を孕んだ胸の高鳴りと。
しかしそれは同時に俺の心を惨めにした。

綾南高校バスケット部に入部し、わずか1カ月で俺は退部届を書いていた。
五月の心地よい風が、新緑を抜けていく。
誰もいない放課後の教室でひとり、退部届を書いていたら何だか泣けてきた。
「越野、部活行こ」
日の光を浴びて、ツンツン頭が笑っていた。
「あっと……俺もう行かねえんだ」
泣き顔を見られるのが嫌で、顔を背けた。
仙道は机の上の書きかけの退部届を手に持った。
そしてにっこりと笑ってそれを破いた。
「却下」
細かく破かれた退部届けが、窓から風に浚われていった。
「行こ、越野」
仙道が俺の手を掴んで、強引に引っ張って行った。
大きくて温かい手のぬくもりを今でも覚えている。

「離せ、仙道! 俺はもうバスケを辞めるんだ。退部届をもう一度書く」
俺は仙道の手を振りほどき、睨みつける。
「そっか、じゃあ俺も辞める」
「ばかっ、そんなの絶対許さないからな」
「なんで?」
気がつけば背中から抱きすくめられていた。
仙道の表情は見えなかった。
だけど、それはひどく傷ついた声色だった。
「仙道、お前は天才なんだ。だから絶対辞めちゃだめだ」
仙道の唇が、髪に、首筋に降りてくる。
「あっ、ちょっと……仙…道…」
女の子みたいに声がひっくり返って、なんだかいやらしい声だった。
「じゃあ、なんでお前は辞めるなんていうんだ?」
「そっそれは……」
俺は言葉につまる。
「バスケはさあ、ひとりじゃできないんだ」
いつも飄々とした男が、初めて見せた内面。
それはひどく幼くて、傷つきやすいもののように思えた。
西日の差しこむ教室の、机に腰掛けて抱き寄せられた。
仙道が俺の胸に顔を埋める。
「越野、悪い。ちょっとだけこのままでいてくれないか?」
「言っておくけど、俺はお前がキライだ。こんなの……不本意だ」
「うん……知ってる」
仙道の瞳に光る純粋な物質を見たとき、俺の心は砕け散った。
「おおおおおお、おい、お前なにいきなり泣いてんだよ」
仙道の顔を両手で包み、顔を覗き込む。
「苦しくてさ、苦しくてときどき死にたくなるよ」
仙道は立ち上がり俺に背を向けた。
「ちょっと待て、仙道。どういうことだ。お前一体なに言ってんの? とにかくわけを話せ」
「話したら、越野バスケ辞めない?」
「ああ、辞めない。だからっ」
「よいせっ」
気がつくと俺は仙道にお姫様抱っこをされていた。
そのまま体育館へ連行される。
「あ、先輩。越野捕獲しました」
「おお、御苦労だったな仙道」
任務完了とばかりに仙道が池上先輩に敬礼したときだ。
床に目薬が落ちた。
「仙道!てっめーハメやがったな」
めりっという鈍い音を立て、俺の拳が仙道の頬に炸裂した。

「謝らねえからな」
居残り練習の後で、もう他の皆は帰ってしまって、今は日の暮れたロッカールームに仙道と二人きりだ。
「うん……」
「でも、お前は綾南のエースなんだからな。ちゃんと冷やしとけ」
俺はタオルを濡らして仙道の頬にあてた。
「越野、イタイ……」
「当たり前だ。おもいっきり殴ったんだからな」
仙道の端正な顔に痣ができていた。
唇の端が切れて、それはなんだか悲しかった。
「唇、切れてるな」
俺がそう呟くと、仙道の手が伸びてきて、俺の顔を包みこんだ。
唇が触れた。
「ごちそうさま」
「仙道、てめー、今なにしやがった!!!」
越野の叫び声とともに、鉄拳がもう一方の仙道の頬に炸裂したのだった。
「越野、イタイ……」
作品名:天才の受難日 作家名:抹茶小豆