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とある女の一年戦争

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いつの時代もそうだけど…男達ってなんであんなにバカなんだろうかと思う。

名誉や富、栄光とか…そんなのどうでもいいじゃないって思う。
今までにも幾人の男達とそんな話をしたけど、みんな必ずこう言って笑ったわ。

『女のお前には分からないだろうな』

分かるわけないじゃない。
戦争なんて…バカバカしい。
生きててなんぼじゃない。
どんなに名誉な戦功を上げたって、富や地位を手に入れたって…死んでしまってはどうしようもないじゃない
自分の命以上に大事なものなんて無いはずなのにねぇ…

─ 必ず戻ってくるから ─

その言葉も聞き飽きたわ
それに私はこの言葉を信じない。
だってそう言って出ていった男は誰一人帰ってきてくれないんだもの

そう、男ってバカで嘘つきで…どうしようもない生き物よね



「来週宇宙に上がる。暫くは会えないな」


紫煙を燻らせながら彼はそう言った。
私はベッドから起きあがると呟くように
「そう…」
と返事をする。

彼も軍人だった。
何度も身体を重ねてはいるが、名前は知らない。
いや、知る必要はない。
所詮は刹那の関係…名前を呼ぶ事で情が沸くのは好ましくない。

しかし呼び名が無いのも不便である。
制服についている階級章から彼の事を「少佐」と呼んでいた。


「少佐念願の宇宙…って訳ね」
「ああ、宇宙で戦功上げれば出世だって出来る」

その言葉に私はため息をつく。
戦争って要は殺し会いなわけで…なんでそれに参加する事に意気揚揚となれるんだろうか?
やっぱり私には理解できない。

「例えば…の話しだけど、自分が死んでしまうかもしれないとか考えたことある?」
「そりゃあるさ。実際死にかけた事だってあるしな」
「じゃあなぜ戦うの?」

今まで相手してきた男達にも同じような質問をしてきた
みんな名声だのなんだの…私には理解できない返事が返ってきた。

しかし…

「守りたいものがあるんだ」


少佐の口からは予想もしない言葉が出てきた。
彼が私をみて微笑む。
今まで見たことが無い、穏やかな表情
その笑顔の意味ってまさか…

と、自分の体がふわっと抱きすくめられた。

「必ず帰ってくる…戦争が終わったら迎えにくるからな」
少佐の逞しい腕の中で私はその言葉を聞く。


そんな事言われたら、期待しちゃうじゃない
帰ってきてくれるかもしれないって思っちゃうじゃない


どうせ戻ってこないくせに…


でも大丈夫、恨んだりはしないから
裏切られたとか思わないから


もうそういうのには慣れてるもの


私はあえて返事はしなかった
ただ…彼に微笑みかけ、その腕の中で目を閉じた。



彼が来なくなって2ヶ月後、一年にわたる戦争が終結した。

連邦軍の勝利で終結したという事で、地球全体が勝利に酔っていた。
新年の祝賀ムードと相俟って、街は華やかな雰囲気に包まれている
私はそんな風景を窓から眺めていた。

少佐がどうなったか、私に知る術は無い。
いや、もう忘れなくてはいけない。
たとえ生きていても彼がここに戻ってくることはありえないのだから
今までの男達だってみんなそうだったじゃない

─ コンコン ─

戸がノックされた音が聞こえた。
こんな昼間に来客など珍しい。

私はドアをゆっくりあけると、そこには連邦軍の制服を身に纏った少年兵が立っていた。
彼に封筒を手渡される。
それが何なのか…不思議に思い封を開けてみる。

中にはとある軍人の戦死の報告書が入っていた。
ご丁寧に生前の顔写真入りである。

その顔にはもちろん見覚えがあった。


「少佐…」


涙は出なかった。
何故これが自分の元に届いたのか?それを不思議に思う気持ちの方が勝っていた。
少年兵に尋ねると
「ご本人の意向で、自分の身に何かあったら貴女様に伝えるようにと…」
という事らしい。


ご苦労様と伝えると少年兵は敬礼を残して立ち去っていった。
しばらくすると窓の下から車のエンジンがかかる音が聞こえる。

再び一人になった私は改めて報告書に目を通した。
彼がMSパイロットだったという事をはじめて知った。
いやそれだけじゃない、出身地とか生年月日とか


そう本名さも…


思わずその名前を口に出してみる


もぉ…ほんとうに酷い人だなぁ
逝くなら一人で勝手に逝けばいいじゃない!!
なにも私を悲しませなくたっていいじゃないの…


不意に目の前がにじんで見える
あれ?私…泣いてるの?


「ったく…男ってのは本当にバカなんだから…」

涙をぬぐいながら誰に言うとなくつぶやく
ああ、そういう事か


バカで嘘つきで…でもとっても愛しい存在


それが男という生き物なのね


作品名:とある女の一年戦争 作家名:REI