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何もかも、正反対だと思った。
 くるくる変わる表情も、歌う様な声も、全てを真っ直ぐに見つめるその眼差しも。
 唯一、共通点と云ったら俺もそいつもクラスの中では大人しく目立たないという事くらい。そう、俺等は互いに只のクラスメート、だった。





「…あ……」
「ナカジ、くん…」


 帰り道で出会ったのはさっきまで同じ教室にいた女子――確か名前はサユリと呼ばれていたはずだ。名字は、忘れた。(それにしても、よく俺のあだ名なんか覚えてるな…)(俺のことをそう呼ぶのはクラスでは村治くらいなのに)
 彼女は明らかに哀しげな顔をして河原に佇んでいた。街全体を蝕んでいく様なな夕暮れの橙に、川面も空も彼女も俺も染め上げられて、気まずさも勿論あったが、やけに浮き世離れしたその光景に、開きかけた口は何の音も発さず空気を微かに震わせた。


「ゴメンね、変なとこ見せて…」


 そう言って、サユリは頬を伝い流れていた滴をごしごしと拭った。かなり泣いていたのだろう、夕日のせいにしては赤すぎる目尻は普段教室でふわり楽しげに笑っている彼女には似つかわしくない。
 そして、普通ならこんな場面に偶然邪魔してしまった俺こそが謝るべきなのだろうが、生憎そんな素直な性格ではないし、余りに唐突過ぎる出来事に頭が全く働こうとしなかった。


「もう、こんなとこ見られちゃうなんて…恥ずかしい…。すぐ忘れてね」
「あ、ああ…」


 誤魔化すように照れ笑いを浮かべる彼女に返す言葉が見付からない。気の利いた言葉を掛ける様な間柄では無いし、かと言って突き放す様な真似はしない方が良いのだろう。それに第一…。
(忘れられない、だろ…)


「…何か、有ったのか?」


 結果、本当に頭が働いていない様だ。口から出た言葉はしっかりさゆりの耳まで届いてしまった様で、彼女は大きな目をぱちぱちと瞬かせた。


「――いや、何でもな」
「うん…。聞いてもらっても、いい…?」


 慌てて口にした取消の言葉も間に合わず、諦めて俺は無言でその場に腰を下ろした。



 少し距離を空けて腰掛けた彼女がぽつりぽつりと話し始めたのは、どうやら叶うことのなかった恋の話で、初めてまともに喋る奴に話して良い事かよと戸惑ったが、多分そういう奴にだからこそ話せる内容も有るのだろう。
 全く、何故こんな厄介な事になってしまったんだ。溜息が出そうだったが、それは出来なかった。普段ならば他人がどう思おうが気にする事は無いのに。
(調子狂う……)
 紺のマフラーを顎の上まで引き寄せる。本当に、俺は何故こいつにこんなにもペースを乱されているんだ。


「――ゴメンね? こんな話を聞いてもらっちゃって…」


 話し終わったサユリは泣きそうに潤んだ瞳で、まだ少し弱々しく微笑んだ。何故、何故、俺はこいつのことを放って置けないんだ。ぐるぐる廻る同じ問、何もかも分からない感情・現象…。唯一つ解ったのは、



「でも、ちょっと楽になった」


(真っ直ぐ前を見据える彼女の瞳は夕焼けと相性が良いと云う事)

作品名: 作家名:タカミヤ