二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

No title

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「どうして俺がこんなことしてるんだろう、って思ってますか?」
「そうですねぇ、まあ、年若い情報屋さんは色々とお忙しそうなのでお仕事の一環なんだろうなぁと思っておくことにしておきましょうか」
「……いじめですか?」
「いえいえ、そんな馬鹿な」

 これでも一応、粟楠会には色々優遇しているつもりなんですがそういう態度を取られると切なくなりますねぇ……。
 溜息を交えて言うまだ高校生の制服を身にまとった情報屋の言葉をさらりと受け流して、全てを見なかったことにしてこのまま帰ってしまえば良かったと後悔するのは目に見えていたのに、男は静かに手を伸ばした。昨夜から降り続く雨は今はもう大分ささやかなものになっているというのに、目の前で苦しそうに息を切らせている男は頭から足の先までしとどに濡れていた。この近くにある高校の制服の面影を感じさせる服は、切り刻まれ、ところどころ赤黒く染まっている。
 路地裏に転がっている細い体を引き上げて、車に乗せようとしたところで部下がいることに気付いた。

「ちょっと待っていてください。部下を下がらせます」
「困りますか? こんなナリした俺が、あんたと仲良しだと思われたら」
「……困るのは、あなたでしょう」

 引き上げた体から手を引いて、表の通りに停めてある車の運転席に座った部下を理不尽な理由で降ろしてから路地に戻ると男は壁に寄りかかって自分の指を見つめていた。

「面白いですか?」
「……何が?」
「自分の指なんか見て」

 夕陽の赤さすら頬に滲ませない白い顔で、男はうっすらと笑う。片方の口角を上げてそのあと何かを諦めたように息を吐きながら続ける言葉は淀みなく、なのに迷いに満ち溢れていた。
 どこからやってくるのだろう自信を常に湛えているはずの凛とした声の気配が一欠片も見えない。自分がそんなに情けない声を出しているということに男は気付いていないのだろうか。 何も反応しない自分を見上げすらしない男はただ自分の指を見つめながら喋り続けるばかりで、このまま死ぬまでこの調子で喋り続けているのではないだろうかとさえ思わされる。

「笑っちゃうよねぇ、指二本とか三本とか、それって何? どういうこと? 前々から不思議で仕方が無かったんだよ、どうして指なの? 最近じゃあ耳とかいろいろあるらしいけど、指とか本当意味が分からない。どうして落とし前が指なのかなぁ、って、笑ったらこのザマだよ? そういえばあんたはどちらかというと請求する側だよね? ねぇ、何もしらないお子様な俺に教えてよ、どうして指なの?」

 漸く顔を上げた男の表情は、とても高校生のそれでは無かった。
 恐怖を奥底に閉じ込める黒い瞳を好奇心に染めて、口元を歪ませて笑う。

「そんな顔は、高校生がするような顔じゃありませんよ」
「こういう高校生もいるってこと、覚えておいた方がいいんじゃないですか? 四木さん」
「おやおや……高校生に教えを請うことになろうとは」

 コンクリートに全体重を預けている体を引き寄せて驚いた。

「寒いですか?」

 小さく震える肩を叩きながら言うと、少しね、と乾いた声が人気の無い路地に響く。

「それだけ濡れていたら寒いでしょうね」

 足元のおぼつかない細い体を抱えて車の後部座席に詰め込む。黒い皮張りのシートの冷たさか、痛みにうねる体をシートに押しつけて手を取った。情報と知識だけが詰まっていた体に新しく刻まれた痛みに震える男の手が、指を掴む。
 ああそうだ、質問されたまま答えていませんでしたねぇ。
 捕まれた指を動かしながら、同時に反対側の指にまとわりついている黒い指輪を外す。

「無暗に指を落とさないことです。この道を生きる覚悟があるなら、答えはおのずと知れるでしょうから」
「……」
「ああ、少し大きいみたいですね。しっかり握って、落とさないように」

 そうすれば指も落とさなくて済むかもしれませんよ。
 冷たい手を握って拳を作らせてから後部座席から出た。ぱらぱらと降る雨が濡らす髪を書き上げる右手にあった指輪は今は無い。どこか違和感のある指を何度か撫でつけてから運転席に滑り込み、車を出す。

「ご自宅の方でよろしいですか? それとも、医者に?」

 夜に染まりつつある紫色の空の下を走る車の中に返事は無い。死んだように眠っている男の自宅は、さて、どこだっただろうかと頭を悩ませる男は口元に小さく笑みを浮かべていた。


----


「おや珍しい。新宿の情報屋さんが何の御用でこんなところに?」
「いや別に、この近くに用があったのでお元気かなぁと思って」
「それはそれは、ご足労頂き大変申し訳無いのですが、この後用事を控えておりまして」

 夜が明け、朝を迎える白い空の下で全身を黒に染めた男はかろやかに笑って足を翻した。

「それじゃあ、また出直すことにします」

 ポケットの中に仕舞われていた右手を出して笑う男の人差指には見覚えのありすぎる指輪が、光る。

「ええ、また」

 路地の中へと消えていった背中に呟いた声は、空に溶けて消えていった。



---
臨也の指輪が四木さんに貰ったものだったらどうしよう、と思って。
作品名:No title 作家名:東雲