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くらいしこうクライ

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幽帝前提臨→帝



あなたをあいしていたら、なにがかわっただろうか
あなたをあいしていたら、なにかかわっただろうか

テレビから流れてくる音が無作法にも空気を読むことなく楽しげな会話を伝えてくる。一方通行の伝達手段だと帝人は思いながら、瞬きをしてテレビに映る人々の姿を捉えた。
(顔ちっちゃい、肌しろい、スタイルいい、声もいい、たのしそう、…楽しそう)
外面の美を余すところなく観察する帝人の頬をかすめるように、ひんやりとしたアイスティーが差し出される。帝人は視線をゆっくりとアイスティーに動かし、透明なグラスを支えている指に光るシルバーリングを認めたところで息をついた。
「ありがとうございます」
「別に、どうってことは無いさ」
臨也は楽しげに赤い瞳を細め、帝人へにこやかな声を上げる。帝人はグラスを受け取り、両手で包むように持ちながら、テレビの絢爛さに再び視線を移す。臨也は帝人が座りこんでいる黒のソファーへ座り、帝人が見ているように番組を捉え、くすりと笑みを浮かべる。
「…面白いですか、臨也さん」
「人間観察の一端にはなるかな。人って自分を飾るのが上手いものとそうでないものがあるよねぇ」
長い足を組みながら、臨也は悪意が混じった揶揄を飛ばす。帝人は臨也の言葉に眉を潜めたものの、すぐに はい と声を上げ、テレビの中の人物に視線を止めた。笑顔を浮かべている出演者の中で一際異彩を放つその人物は、無表情のまま淡々と、問われた事象にのみ答えを返している。自分から口火を切ることはないがぶっきらぼうな印象を持たないのは、答えに多様な意見や思考が含まれており、場を和ませもすれば華やかにもする受け答えがなされているためである。帝人はその人物をじっと見つめながら、重苦しく溜め息をついた。
「ご機嫌斜めだね、帝人くん」
「そういう、可愛い言い方は止めてください」
機嫌は確かに悪いですけど。帝人の言葉に、臨也は笑って目を細める。臨也が楽しんでいることを分かっている帝人は、体温で温められたグラスから冷たい水滴が零れている事実に目を細めて こくり と一口アイスティーを飲んだ。シトラスの香りがするフレーバーティーを飲みながら、帝人は臨也を呼ぶ。
「臨也さんは芸能人に興味がありますか?」
「どうだろう。興味深い対象ではあるけど、それが個人に向けられることはないな」
芸能人と線引きをする君の方によっぽど興味あるね。臨也が笑いながら呟いた言葉へ、帝人は瞬きをしながら そうですか、と声を上げる。テレビの中では彼が喋る度に小さな黄色い声が上がる。
(…それで、人気者)
帝人は思いながら、臨也が持ってきたアイスティーをテーブルに置いた。僕はそろそろ、重たく声を発した帝人へ 臨也は変わらず笑みを見せたまま頷く。
「またおいで、帝人くん。格好の逃げ場くらい何時でも提供してあげるよ」
「…分かってるんですね、やっぱり」
愛しい君のことだからね。臨也は笑いながら、帝人を束縛もせずひらりと手を振ってテレビのチャンネルを変えた。帝人はアイスティーの礼を呟いた後、音も無くフローリングを滑っていく。
「…貴方を愛せばよかった」
帝人は重く呟き、廊下へと力なく進んでいく。臨也は目を細めて、テレビを見つめたまま鼻にかかった相槌を打った。
「君のためなら逃げ場くらい提供するよ。…どんな形のものだろうとも」

臨也のマンションを出て新宿駅を出発し 池袋に戻ってきた帝人は、携帯電話を引っ張り出して着信の確認をする。履歴も何もない状態の携帯を見下ろして息をついた帝人は、次の瞬間不規則に光を放ちだしたそれを見つめて、唇を引き結んでから通話ボタンを一度押した。
「幽さん」
『突然ごめんね、今 大丈夫?』
低い、聞き取りやすい声で彼が声を発する。相互発信の機器を用いて対話している帝人は、はい、と従順に返事を返した。
『仕事が終わったから 君に会いたくなって連絡したんだ』
「分かりました、今から行きます」
帝人は声をふわりと持ち上げながら、自分の声がまるで引きつっているように感じられて瞬きを行う。彼は電話先で暫く黙った後に、帝人くん、と声を上げた。
『俺のこと、すき?』
「…何言ってるんですか、幽さん」
電話先の相手へ届くように、帝人はへにゃりと眉を落として呟いた。うん、声は二重に響き、帝人の脳内を軽く混乱させる。携帯から届く音と、自らの耳に直接届く音が一致することに気付いた帝人は、視線を持ち上げ、眼鏡でそれなりのカムフラージュをしている幽を見つけて息を止めた。幽は携帯の通話を切り、一歩帝人に向けて足を踏み出す。
「俺のこと、すき?」
幽は呟き、帝人を見下ろす。帝人は眉を歪めながら、掠れた声で彼のことを呼んだ。彼はふと考え込むように首を傾げ 違うね と声を上げる。
「俺は君が、好きだよ」
離せなくなるくらい。幽の呟きに、帝人は瞬きをする。求めていたはずの言葉へぎこちなく笑みを浮かべた帝人は、ぼくも と声を上げて一瞬躊躇い唇を結んだ。
「貴方のことが、好きですよ」

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あなたをあいしていたから、なにがかわっただろうか
あなたをあいしていたから、なにかかわっただろうか

あなたをあいしていたから、なににきづかなかったのだろうか
作品名:くらいしこうクライ 作家名:宮崎千尋