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Alice

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「んじゃ、行くよ」
「おいルカ、鍵持ってんのか」
「ない」
「アホ。こっちは夜バイトだから今度こそ鍵持ってっとけよ」
「いーよ。また雨どいのぼるし、んじゃ」
「だから鍵持っ」

ドアが閉められてソファーごしのやりとりは断ち切られた。
四角い空間にリリと貧相に響いたのは、ドアにぶら下がった黄色いベル。






Alice






小さく舌打ちをしてマガジンに顔を戻した。
オレンジ色の光線が線みたいにマガジンのページに映りこむ。顔の横にも。
眩しくて顔をしかめた。
窓がデカいのと、窓にかけたブラインドがぶっ壊れかけているのがよくない。
ぶっ壊したのはルカだ。

あいつは物を大切にしない。
雨どいを口笛吹きながら掃除していたかと思えば、鍵がなかったからといって雨どいをよじのぼり、折った。(ルカがやんねえからしぶしぶ俺が修理した)
ブラインドを下ろす仕組みを理解しようともしないで力任せに下に引っ張り、壊した。(修理しようとしたけどこれは無理だった)
ひとの服勝手に借りといて着終わったらそこらへんに放り出す。(これはマジで喧嘩になる)

ふわふわふらふら上滑り、いつも遠くを見てた。
あいつがぼーっとしているとき、
5割は本当に何も考えていなくて、4割は晩飯のことで、1割はむかしのこと。
いまは違う。
きっと、大抵、きょう会いにいったあいつのことをおもってる。

あいつとそうなりました、という報告をうけて俺は正直なんと言っていいかわからなかった。
なんと言うべきか、ルカがなんと言われたいのかわからなかった。
だからしばらく黙って考えた末に、なんだか血迷って

「ちゃんとしろよ」

と言った。

「・・・うん」

神妙に答えやがって。
いつもみたいにチャカせよバカやろう!

バカやろう・・・






おまえ、

ちゃんとするってわかってんのか。
すげえ大変なんだぞ。
鍵は几帳面に持ち歩かないといけねえし、なくさないように管理もいる。
雨どいは壊すんじゃねえぞ。
ブラインドのつくりを理解して、説明書どおりに使わないとちゃんとしているとはいえない。
それとなにより、あいつを大切にしなくちゃいけない。
ちゃんと大切にするなんておまえ、あんましたことねえだろ。
人のモンを借りたらきれいにして元の場所に返すんだぞ。
つかそもそも無断でひとのモン使うな。
ホットケーキはほどほどにしろ、肉喰え、野菜も。

ったく、ほんとにちゃんとひとりでできんのかよ
おまえ不安要素しかねえじゃねえか
もう俺は世話してやんねえんだぞ






夕方の光がまぶしすぎてマガジンをついに読んでいられなくなった。
窓と反対方向に顔をむけた。

チカチカして頭痛え。

目ェ痛え。

それもこれもブラインドを壊したルカのせいだ!

目をぎゅっとつむってもう一度舌打ち。

ゆっくり目を開けば光の余韻で黒点のある視界いっぱい、でかいキッチンがある。

広い。

天井が高い。

ごちゃごちゃしてる。
のに、
ガランとしてる。

目が慣れてこなくたってわかる、見慣れた風景






ガラン






“ちゃんとひとりで”






ああ

そうか



おれもか







「・・・目ぇいてえ」

夕暮れの中で大きな背が呟いて、わずか小さく丸まった。






























***



深夜、ガソリンスタンドのバイトから帰ると二階の雨どいが90度折れていた。
中に入ってみればソファーに寝そべってマガジンを読んでいるルカが「ホットケーキつくって~」と言ったものだから、なんか色々損した気分になった目が赤いコウちゃんの鉄拳が振り下ろされた。
作品名:Alice 作家名:kq