いれもの 2
いつも遊んでいた時間は、シズちゃんがいないとどうやって潰していいのかわからない。
本を読むことは好きだし、他の人と話して色んな事を聞くのも好きだから
時間の潰しようならいくらでもあるはずなのに。
でも、この時間はシズちゃんと過ごす時間だったんだ。
いれもの
静雄が倒れてからもう3ヶ月が過ぎたが、静雄が目を覚ます兆候は見られない。
この間、静雄の見舞いに来る臨也を新羅は毎朝迎え入れていた。
「おはよう、シズちゃん。調子はどう?
今日はお父さんの誕生日なんだよ。朝からお母さんが牡丹餅を作っててね、
もちろんシズちゃんの分もあるんだよ?
シズちゃん、甘いもの大好きだからいっぱい食べるもんねえ。
俺の分も少しだけあげるから、早く起きてね。一緒に食べようね。」
臨也は寝ている静雄の手をとりながら、話しかける。
毎日、その日あったことの報告だったり、思い出話だったり、色々な事を。
周りの人間は、その間静雄と新羅を2人きりにすることに決めていた。
話終えると、臨也は障子を開ける。それが新羅を部屋に招きいれる合図だ。
新羅はまだ小さいながらも、様々な医療知識を身につけていたし
父・森厳にひっついて静雄の様子も毎日確認していた。
臨也に静雄の容態を報告するのは新羅の役目になっていたし、臨也もそれを信頼している。
彼自身が、幼いながらも同居人のセルティに恋慕していることから
自然と神様についての造詣が深くなったという所も重宝するところだ。
「やあ新羅。シズちゃんの様子は…今日も変わらず、かな?」
「そうだね。最近はずいぶん落ち着いて、特に変わった様子はないよ。
安定した眠りに入っているようだ。」
3ヶ月間、静雄は昏々と眠り続けている。
体に異常はない。ただ、眠り続けているだけなのだ。
眠っているのだから食事もしていないのだが、どういうわけか静雄に衰えは見られない。
ここ数日は少しの異変も無く、新羅は臨也にそれを告げた。
「――でも、セルティが言うには段々と静雄から同じような気を感じるようになってきたんだって。多分、神様としての気なんだろうけど。」
「そっか…。」
臨也は静雄の髪をさらりと撫でて、呟いた。
「神様でもなんでもいい。俺はシズちゃんが早く目を覚ましてくれるのを願うだけだよ。」
静雄が倒れてから、日に日に臨也に疲労が溜まっていくのを新羅は感じていた。
今では、寝ている静雄よりも臨也の方が容態が悪いように見えている。
「ねえ、臨也。うちで休んでいかないかい。」
「え…。」
ふふ、と笑って新羅が言葉を続ける。
「どうせ家では3ヶ月ほどしっかり眠れていないんだろう?
静雄の隣に布団を敷こう。栄養剤も用意してあげる。
静雄の容態も安定してることだし、一緒に寝ていきな。」
少しは安心して眠れるんじゃないかな。新羅はそう告げた。
臨也は何度かぱちぱちと瞬きをした後、以前と同じ泣きそうな笑顔で
新羅には礼を言うことばっかりだ、と言葉を返した。