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閉ざされたドアの前に立ち，俺はノックを繰り返した。
さっきから何度呼んでも出てこないのは図体ばっかりでかくなりやがった俺の弟，ヴェスト。

いくらドアに遮られていたって，この向こうでアイツがどんな顔をしてるかなんて容易くわかる。
ベッドに突っ伏して，枕に顔を埋めて。
深い皺を眉間に刻んで。
死んだ方が楽だってくらい辛そうな顔をしている。

こんなドア一枚で俺のこと締め出せると思うなよヴェスト。
思春期だなんだってわかってるからこっちは遠慮して，お前が部屋に篭ってナニしてるときは遠慮するし，エロ本の隠し場所だって黙ってやってんのに。
お前がそのつもりなら，こっちだって腹を括る。強行突破だ覚悟しろ。

云うなり俺は床を蹴って鈍い金色に光るレバー状のノブに飛びついた。
ぎぃ，と微かに軋む音を立て，ドアがゆっくり開く。
ドアを蹴って床に飛び降り，どうだ，見たかよ？と喉を鳴らすと，明かりも付けない暗い部屋の奥，ベッドの上から軋るような声がした。

「来るな」

お前の命令なんて聞かねーよ。
臆することなくカーペット敷きの床をすたすたと歩く。

「来ないでくれ」

低く掠れたヴェストの声を聴きながら，俺は床を蹴ってベッドの上に飛び乗った。

ドアの向こうで想像した通り，ベッドに突っ伏し枕に顔を埋めたヴェストは，顔のすぐ横のマットレスが俺の重さで沈むと，ほんの少しだけ顔を上げて俺のことを見た。

「…今は相手をしてる気分じゃないんだ」

すまない，と継がれた声は震えて掠れて途中で消えた。

あーもうほんっとお前相変わらずなのな。
今よりずっとちっこい頃，迷子になったお前を保護してやったのは誰だと思ってる。
あのときだってお前，顔くしゃくしゃにして今にも泣きそうなのに引き結んだ唇噛み締めてずーっと泣くの堪えてたよな？
ガキなんだから泣きたいときは我慢せずに泣きゃいいんだよ。

俺は出会ったばかりの頃のヴェストを思い出しながら，すい，と顔を寄せると枕の痕がついてしまった頬をぺろりと舐めた。

「…やめてくれ。オスト」

頼りなさを増した声を無視して，俺は頬，額，眉間の皺，と気の向くままに舐めてやった。

ヴェストの喉が引き攣った音を立てる。
目尻に浮かぶ小さな珠。
これを引きずり出すのがいつからか俺の役目のひとつになっちまった。
意地っ張りのヴェスト。