サイケデリック2
学人はどうやってサイケに接して良いか分からないままでいた。
帝人の自室で彼のパソコンの管理をしながら、学人はため息を何度もつく。
(あの姿で中身は小さいまま・・・)
心臓に悪いと思う。
あっちは小さいままの気分で接してこようとするが、見た目は大人。
行動がいちいち可愛らしいのに、一瞬ドキリとしてしまう自分がいる。
(もう、勘弁してくれ・・・)
学人が悶々と悩んでいると、急に視界が暗くなった。
不思議に思って顔を上げると、
そこには満面の笑みのサイケの顔が鼻先が触れ合うほどの距離にあった。
「がっくん。遊びに来たよ」
「っうわぁっ!?」
がたどががしゃん。
「いったい・・・」
「だ、大丈夫!?がっくん!」
サイケが椅子から転げ落ちた学人の腕を掴み、立たせてくれた。
その腕力に学人は目を見開く。
「怪我とかない!?痛いところは!?」
子供の時ではあり得なかった。
その力強さに、真剣に心配してくれる瞳に学人は血が沸騰する錯覚を起こす。
「っ、な、ないよっ」
「本当!?無い?」
「う、うん。ないから大丈夫」
学人は何とか笑って、サイケを安心させようとする。
「よかったぁ~」
へにゃりと笑顔を見せるサイケに、学人の心臓がまた脈打った。
「がっくんに怪我無くて良かった。・・・ふふ」
「な、なにサイケ・・・?」
「こうやってがっくんを見るなんて夢にも思わなくて」
サイケは本当に嬉しそうに頬を染めて、目尻を下げる。
学人は心の中で絶叫した。
(あぁ止めてっ!そんな可愛い笑顔で微笑まないでっ・・・!)
赤くなっていく頬を止めるすべを学人は知らない。
きっともう耳まで赤くなっていることだろう。
「・・・あれ?」
「な、なに・・・?」
お願いだからそんなまじまじと自分の顔を見ないで欲しいと学人は願った。
「がっくん顔赤いよ?・・・何かのウイルス・・・?」
途端にサイケの瞳が細められ、あどけなさなど無い青年の顔つきとなる。
先程までニコニコと笑っていた可愛らしい男の子が急に青年へと変貌する。
学人の心はパニック寸前だった。
サイケの手が、学人の頬に当てられる。
「へぇっ!?」
ほんの少しの接触でも学人にとってとても恥ずかしく感じられる。
「ちょっと待ってね。今調べるから」
サイケの真剣な顔に絆されかけていた学人は、
サイケの言葉と、段々近づいてくる彼の顔に漸く頭脳が回転し始める。
(あれ待って・・・!さっき調べるって言ったよね!?言ったよね!?)
頭を過ぎるのはまだサイケが小さいときにしていた簡単な調べ方。
あれをここでするというのだろうか。
学人の心は破裂寸前にまで高鳴ってしまう。
(そんな、あれはまだサイケが小さかったからでっ!い、今そんなっ)
「ちょっ、調べるって!サイケまっ、」
学人の制止も空しく、柔らかいものが学人の唇に押し当てられた。
「くぅっ」
舌先をつかって無理矢理口腔に進入され、学人はサイケの腕をギュッと掴んだ。
(な、なにこれ・・・!こんな、あの時はこんな感じにならなかった、の・・・に)
サイケが小さいときも、似たようなことをした。
けれどその時はこんな感覚など無かった。無かったはずだ。
舌先が合わさって、粘膜が溢れる音がする。
これはただ、学人がウイルスに感染していないか調べるための行為で、
それ以上でもそれ以下でもないはずなのに。
(足にちからはいんなっ・・・・)
がくがくと足下から崩れそうになる学人を、サイケは腰に腕を回して支えてくれる。
「んっ」
サイケの腕を掴む指にさえ、力が入らなくなってきた。
心なしかサイケに抱きしめられている気がする。
脳が酸欠状態になってきたのだろう。
段々と意識が遠ざかっていく感覚がしてきた。
これ以上は危険だと感じた学人は、残る力でサイケの胸を叩く。
「ぷはっ」
漸く解放されて、学人は肩で息をした。
息をする度に胸が大きく上下する。
「がっくん・・・?」
「・・・・あのね、サイケ。やり過ぎだから・・・僕窒息死するかと思ったんだけど」
本当は腰に回された腕とかを外して欲しかったのだが、
今外されると確実に腰が抜けて座り込んでしまうことが分かっていたので、
学人は大人しくサイケの腕の中で息を整えていた。
「ごめんね・・・がっくん。本当は調べるだけで終わりにするつもりだったんだけど・・・」
サイケの告白に学人は眉をひそめる。
「・・・は?」
(終わりに、するつもりだった・・・?)
「だって、がっくんとのキスすっごく気持ちよくて・・・ちょっと無理しちゃった」
ごめんね?とはにかみながら告白された学人は、
一瞬呆けた後、すぐに頬を真っ赤に染め上げサイケの胸に額をこすりつけた。
(何それ何それ何それっ!?ちょっ、えぇぇぇっ)
「あれ?がっくんの音、すっごくバクバク言ってるね!ふふ、今とっても近いから分かるよ!」
サイケはとても嬉しそうに学人の心の音を声に出す。
学人は顔を埋めていてサイケからは見えないが、口を何度もパクパクさせ言葉を紡ごうとしていた。
「あ、忘れてた。がっくんなーんにもウイルスとか感染してなかったから安心していーよー!」
サイケは学人を抱きしめながらニコニコしている。
「でね、でね。さっきとっても気持ちよかったからがっくん、またキスしてもいーい?」
学人は痛感した。
サイケは身体ばかりが大きくなり、中身が幼すぎるのだと。
学人は意を決して顔を上げる。
顔が赤いが何だ。心の音を聞かれてるからって何だ。もうやけだ!
「サイケ・・・」
「なーにぃ?がっくん」
「・・・キス禁止だから」
「ぇ・・・?」
「だから・・・、キス禁止!分かった!?」
「えー!?何で!どうして!?がっくん気持ちよくなかったの!?」
「気持ちいいとか簡単に言葉にしちゃいけませんっ」
「なんで?気持ちよかったらまたすればいいじゃん?駄目なの?」
「駄目なの!駄目ったら駄目なのっ」
「ぶー!」
「頬を膨らませても駄目っ!」
サイケはその後もずっと駄々をこねていたけれど、学人も一歩も引かず、
二人は部屋の主である帝人とサイケを迎えに来た臨也が帰ってくるまで、
ずっとキスについての攻防を繰り広げていたのであった。
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サイケ・・・今日見ないと思ったら・・・ここにいたの
・・・あの二人の会話を聞いているとこっちまで恥ずかしくなる
だってどっからどうみてもバカップルの会話じゃんあれ
・・・学人っ