夕日の決意
教室の窓から外を眺めながら、帝人は大きなため息をいた。
「はぁ・・・」
「おーいみかどー」
「はぁ・・・」
「竜ヶ峰君?」
「はぁ・・・」
帝人に声をかけた正臣と杏里は顔を見合わす。
「これ、なにかあったの?」
「私にも分かりません・・・・」
正臣は帝人を指さし杏里に問うが、杏里は軽く首を横に振った。
「じゃぁなんだ?」
正臣は腕組みをし、云々言いながら唸りだした。
杏里も顎に手を当ててしばし思案した後。
「もしかして・・・恋煩い、とか」
次の瞬間、ピクリと帝人の肩が跳ねる。
その動きを二人は見逃さなかった。
「なぁ~んだ帝人!恋煩いのため息かよ!誰だ?誰だ?お相手は!
もしかしなくともこの、エロ可愛い杏里様か?そうだろう?そうだろう!」
正臣は帝人の首に腕を回すと、拳をぐりぐりと帝人の頭にすりつける。
「ちょっ正臣!苦しいし痛いってっ」
「照れるな照れるな!このムッツリシャイボーイめが」
「誰がむ、むっつりだよ!」
「ははん!そうやって焦るところが益々怪しい。怪しいぞ帝人!」
「いい加減に離してよ正臣!」
正臣は尚も帝人を弄りくり倒す。
そんな二人を、杏里は笑いながら見つめていた。
「お二人とも、いい加減にしないと下校時刻が過ぎちゃいますよ」
「おっといけねぇ」
杏里の言葉で漸く正臣は帝人を解放した。
「全くまさおみ~。苦しかったんだけど?」
「ははは!ごめんごめん。つい調子に乗った」
正臣は笑いながら、杏里も微笑みながら帝人を見る。
「ほら、行こうか」
「行きましょう。竜ヶ峰君」
帝人はそんな二人の笑顔に頬を染めつつ、立ち上がる。
「うん」
下校途中。
いつものように杏里と帝人が先を歩き、正臣が二人の一歩後ろを歩く。
(さて、俺の幼馴染み君は一体誰に恋煩いをしているのかねぇ)
杏里の言った言葉に反応したのは間違いがないと確信している正臣は、
目の前で笑っている幼馴染みに目を細める。
(う~ん帝人の女子の友好関係ははっきり言ってないに等しい。
で、杏里しかいないわけだが・・・。どころがどっこい。
帝人が杏里に惚れてるなんざ、今に始まった事じゃない。
だから杏里であんなため息を出していた訳じゃない。
だから他の女の子・・・って考えるんだがまぁ、こいつの性格じゃぁまず無理。天地がひっくり返っても無理ときてる)
それでは誰だ?と正臣が意識を飛ばしていたら、急に目の前の二人が止まった。
「わっ!?」
「えっ」
その所為で正臣は思いっきり帝人の背に体当たりをした。
「帝人ごめっ」
「あ、良いよ別に。急に止まったの僕らだし」
帝人は後頭部を押さえながら、正臣に振り向いた。
正臣はぶつかった額を押さえている。
ふと、帝人達の前に黒色があることが目に入った。
額に手を当てたまま、硬直する。
「いざやさん・・・・」
殆ど無意識のように正臣から名前が漏れた。
臨也は不敵な笑みを浮かべて、片手を上げる。
「やぁ来良の諸君」
声をかけられた途端、正臣と杏里は帝人の前に出た。
杏里は罪歌を出す体勢まで取る。
「おっとそんな怖い顔をしないでくれよ?俺はただ帝人君に会いたかっただーけ」
ニコニコと笑うこのイカレタ情報屋を正臣は体感し、杏里は感づいている。
「ど、どうしたの二人とも!?」
驚きの声が帝人から上がるが、正臣と杏里は戦闘態勢を崩さない。
「無敵で素敵な、新宿滞在中の情報屋さんが何のようすっか?」
「返答次第では・・・」
正臣と杏里は足を一歩踏み出し、殺意を隠さない。
そんな二人を楽しそうに眺めていた臨也は演技かかった仕草で肩をすくめた。
「もうそんな顔しないでよ?ねぇ帝人君?」
臨也は二人の背中に隠されている帝人にウインクして見せた。
その臨也に二人は驚きを隠せない。
二人同時に帝人に振り返った。
「み、みかど?」
「竜ヶ峰く、ん?」
三人の視線を一気に浴びて帝人は頬を染める。
手をワタワタと振り、挙動不審も良いところだ。
「えっとあのっ」
正臣はそのまま硬直し、杏里は臨也に向き直った。
「あははは!目が怖いよ?」
臨也が暗に、目が赤くなっていると伝えているが杏里は微動だにしない。
「・・・その目、嫌い。だって君人間じゃないもの」
臨也が作り笑いを止め、冷たい瞳で杏里を見下す。
「黙ってください」
シャキッと鉄特有の音がした。
「そ、園原さん!?」
その杏里の動きを止めたのが帝人の一言。
「な、なにやってるの!」
「りゅうがみねくん・・・」
杏里は罪歌をしまうと、
未だに呆然としている正臣にチラリと視線を向けた後、
不安そうな瞳で帝人を見つめた。
「僕は大丈夫だよ・・・?だから、そんな顔しないで」
帝人ははにかむように微笑むと、臨也の元へと駆けだした。
その動きに漸く正臣が反応する。
「帝人!」
「竜ヶ峰君!」
二人の伸ばした手が空しく宙を掴む。
臨也は勝ち誇った顔で、両手を広げ帝人を抱きしめた。
「いざやっ」
「ふっふーん。捕まえた~」
臨也は立ちつくす二人に意地の悪い笑みを浮かべると、
帝人の肩を抱いたまま、二人に背を向けて歩き出した。
「じゃ~ね~」
「そ、それじゃあね!正臣、園原さん!」
臨也の腕の中からぴょこぴょこと帝人は手を振りながら、
臨也と共に歩いていってしまった。
「・・・・紀田君」
「・・・おう」
杏里は拳を握りしめると、正臣を振り返った。
「私、竜ヶ峰君があの人と一緒になって幸せになると思えません」
「どーかん」
正臣は二人が去っていった道を睨み付けるように見つめていた。
「俺たちの大事なダチだもんな」
「はい」
二人は決意を新たに、臨也への報復と帝人奪還を心に誓った。
---------------------------------------------
臨也さん、この頃正臣と園原さんがなんだか過保護なんですよね~
ははは、そうだね。この俺に喧嘩売るなんて良い度胸だ
臨也さん?
ちょっと待っててね今こらしめて、
正臣と園原さんに手を出したら僕もタダじゃすましませんよ?
・・・はーい