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構ってほしいの!

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午後のけだるい空気の中を、携帯ゲーム機から聞こえてくる軽快な音楽が満たしている。
臨也は、不機嫌そうにパソコンを叩きつつ、何度も何度もソファを伺う。正確には、ソファでDSを操作する帝人を、だけれども。
この連休は、某国民的人気ゲームの新作の発売日だった。そのくらいは分かっている。だから臨也だって、帝人が土曜日に予約していたそれを買って帰ってきたことについて、どうこう言うつもりはない。むしろ「買っちゃいました!」とにこにこ帰ってきた帝人の笑顔を見て、ああ幸せだなあと臨也までほわんとしたくらいだ。
そう、あの時確かに臨也はそのゲームを許した。だがしかし。
今この現状は、どうしてくれるんだろうね!?
そう、臨也は今、かなり切実にそのゲームを地球上から消し去りたい衝動にかられている。なんてったって帝人をこの連休中ずーっとずーっと独占し続けているのだ、あれは!
いつもなら、コーヒーいる?と尋ねればちゃんと臨也の方を向いてお願いします、と言ってくれるのに!
いつもなら、食事の時間になったら、手伝いますよと台所に来てくれるのに!
いつもなら、夜更かしする臨也に小言を言うのは帝人の方なのに!
コーヒーをさし出しても「ありがとうございます、そこ置いといてください」で済まされ、食事はしつこく呼ばなきゃ来てくれず、夜遅くまでずーっと携帯ゲームと向き合っている帝人に、もういい加減、キレてもいいんじゃないだろうか。臨也は真剣にそう考える。だってもう終わってしまうじゃないか、せっかくの三連休が!
ちょっとイチャイチャできると思ったのに!
思ったのにさ!!
「・・・帝人君」
やけになって意地を張って気にしていないふりをして、パソコンと向き合っていた自分が馬鹿みたいだ。臨也は小さく呼んでみたけれど、ソファの上でゲーム画面を見つめている恋人は、はい?と生返事を返すだけで顔さえ上げてくれない。
もうなんか、いろいろと、ぶちきれていいですか!
臨也はガタッと音を立てて立ち上がり、だんだんっ!と下の階の住人の迷惑になる程の足音を立てて帝人に近づいて、その手の中に収まっているゲーム機におもむろに手を伸ばす。
ガシッ!
だがしかし、反射的にか予想していたのか、帝人もはしっとゲーム機を掴んだので、取り上げることはできなかった。
「びっくりした、なんですか臨也さん」
「なんですかじゃないよね?俺が黙ってるのをいいことにずっとずっとずーっとこれに向き合っているのってひどいと思うんだけど今すぐセーブして電源切るか、セーブせずに電源切るかどっちか選べばいいよ」
ひやり。
帝人は、そろそろと顔を上げて臨也を見上げた。
いつになく怒っている。
っていうかとても怒っている。
言うとおりにしなければゲーム機をぶっ壊される勢いで、怒っていらっしゃる。
帝人は瞬時に考えた。
今ここまで積み上げてきたデータを本体ごとぶっ壊されるのは決して得策ではない。ついでにいうなら、2時間セーブせず進んできた戦闘歴を白紙にするのも惜しい。そしてさらに思うのは、そういえば臨也の顔をまともに見たのは、三日ぶりかも知れない。
「・・・セーブしますからちょっとだけ待ってくださいね」
すぐに答えて、ぽちりとボタンを押す帝人を、臨也はじーっと無表情で見据えている。うわあこれどうしようね。
電源を落とした帝人に、おそらくは文句を言おうと口を開く臨也を目の前にして、帝人は一瞬で計算した。
このまま言わせておいたらとても楽しくない。それに、せっかく久しぶりにちゃんと顔を合わせたのに、怒った顔をされるのも楽しくない。だったらその前に。
帝人は思い切って手を伸ばし、臨也の頭をぎゅーっと抱え込んだ。何か言おうとしていた臨也が、口を帝人の肩に押し当てられてむぐっと唸る。
そのままもがもがと口を動かす臨也をだきかかえて、さて、これからどうしようかなと帝人は考えた。もうゲームは出来ないだろうし、そうしたらあとは、遅くなったけれど休日を恋人らしく過ごすのがセオリーだろう。
「ねえ臨也さん、構って欲しいならそう言ってくれなきゃ、わかんないじゃないですか」
はーっと息をついて耳元でそう言うと、臨也はがーっと耳まで赤くしながら、それでもやっぱりもがもがと口を動かして、そのまま帝人をぎゅっと抱きしめた。
「・・・臨也さん?」
よしよし、と頭をなでる帝人に、臨也は言う。


「・・・そんなのより俺の方が可愛いもん・・・」


「・・・はい?」
「そんな、触れない動物より俺の方があったかいもん・・・」
「え?あ、はあ、そうです、ね?」
「それに!俺なら実際撫でたり抱きしめたりできるし、人間の言葉しゃべれるし!」
「・・・え、ちょっと、何、そういう問題じゃ」
「帝人君のために頑張って戦っちゃうよ!どの敵潰す!?」
・・・だめだ、なんか、なんていうか、その発想はなかった。
あれ、この人ゲームやってた僕に構って欲しいっていうんじゃなかったの?そうじゃないの?っていうかゲーム相手に真っ向勝負なの?
「臨也さん、あのですねえ」
帝人にのしかかるようにして、無言でぐりぐり擦り寄ってくるこの23歳児を、どうすればいいのかと帝人は考えた。
っていうかいいから、一言だけ言わせろ。


「無機物とあなたを、比べるわけないでしょ」


あなたが一番可愛いですよ、なんて言ったら、羞恥心に耐えられなくなった臨也がまた暴れそうだから、その言葉は飲み込んで。
けれどもそんな帝人の言葉に、真っ赤な顔を上げた臨也は叫ぶのだった。
必死に目を逸らしながら、折原臨也、渾身の一撃。




「だから!構って欲しいって言ってるんだよ!むしろ構え!構ってくださいお願いします!」



そしてたえきれないとばかりに、さらにぎゅーっと帝人に抱きついて顔を埋める。
だからさあ、何度も何度でも確認するけどさ。
この人なんでこんな可愛いの、ねえ!?
作品名:構ってほしいの! 作家名:夏野