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秋の始まりの風景<聖ルドルフ>

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「十分休憩!」
 かけた号令に、コートのあちこちから「はい!」という小気味いい声が返ってきた。それに軽く頷いて、裕太もベンチに向かう。置いておいたタオルは、日の光を吸って暖かだった。汗を拭うと、埃っぽいような日向のにおいがする。水分も摂っておこうと給水用のボトルに手をかけたところで、フェンス越しの人影に気がついた。
「よう」
「赤澤部長!」
 制服の袖をまくり、胸元のボタンをはずした着崩した姿が、軽く片手をあげて挨拶を寄こした。学年が違うと同じ校内でもなかなか顔を合わせない。赤澤は寮生ではないのでなおさらだった。
「どうかなさったんですか」
「いや、様子見」
 思わず駆けよって行った裕太に、そう言って赤澤は笑う。それから、改めてまじまじと裕太の姿を上から下まで眺めた。
「……なんですか」
「いや、様になってるなと思ってよ」
 号令かけるのも板についてきたじゃねえか。そう笑う赤澤に、裕太は照れ臭くなって頭を掻いた。
「そうですか?金田には、もっと堂々としろっていつも言われるんですけれど」
「まあ、あいつはそう言うだろうな」
「何ちくってんだ」
 突然後ろから膝の後ろをつつかれて、身体のバランスが崩れる。慌てて態勢を立て直して振り返ると、ちょうど金田がやってきたところのようだった。
「金田も元気そうだな」
「おかげさまで。お久しぶりです」
 律義に挨拶をしている金田の頭を、意趣返しの意味をこめて裕太もはたいてやった。
「何すんだ!」
「そっちが先だったろ!」
 やいのやいのと言いあっていたが、「お前ら相変わらずだなあ」という赤澤の一言で我に返った。彼らから部活を引き継いでもうしばらくになる。部長と副部長がこんなことでじゃれていては不安に思われるかもしれない。
 そう考えたのは金田も同じだったようで、彼も恐る恐る赤澤の様子をうかがっていた。当の赤澤はと言えば、屈託なく笑っていただけだったが。
(ああ、そうだ)
 こういう人だった、と改めて認識する。おおらかすぎるほどおおらかだった部長。その後を継いで、裕太は時折自分の加減がわからなくなる。自分なりにやればいいのだとわかってはいるし、言われてもいるのだけれど。
「そういえば、観月はよく来るのか?」
 ぐるりとコートを見回して赤澤が問うてきた。コートサイドにいるのは1、2年ばかりだ。裕太と金田は同時にかぶりを振る。
「いらっしゃいません」
「へえ」
 正直な赤澤は、意外そうな表情を隠さない。それに苦笑して、裕太は言葉を継いだ。
「毎晩、報告はしていますけれど」
「……ああ」
 そういうことか、と納得した風でそれ以上を追及されなかった。
 実際、観月に報告したからと言って何があるというわけでもない。こちらから相談を持ちかけない限り、観月も報告を聞いて、それで満足なようだった。
 そうやって、観月も赤澤も、部活から距離を置いて裕太たちに任せようとしていることは嫌でもわかった。それには応えねばなるまいと思っている。だからさっき、「様になっている」と他ならない赤澤に言われたことが嬉しかった。何となく、認められたような気がしたからだ。
「じゃ、がんばれよ」
 本当に様子を見に来ただけのようで、そう言うと赤澤は踵を返そうとする。
「え、打っていかないんですか?」
 思わずその背中に声をかけると、片手をひらりと振られた。
「今日はラケット持ってねえからな」
 それはきっと口実だろう。その気になれば、部室には予備のラケットがあるし、誰かから借りてもいい。だからここで帰るということは、そもそも今日はコートに入る気は少しもなかったということだろう。
「……今度は持ってきてくださいね」
 どことなく拗ねたような口調で金田が言う。彼は特に赤澤と近しかったから、赤澤がここまできておきながら打ちもしないで帰ることが不満なのだろう。
「はいはい」
 軽く返事をして、今度こそ赤澤は去っていく。その後ろ姿を見送って、裕太と金田は顔を見合わせた。
「……練習、するか」
「だな」
 きっと、自分たちが問題なく部を率いていけるようになれば、そうすれば赤澤や観月も気軽にコートに来てくれるようになるだろう。まずは、自分たちが強くならなければ。
「休憩終わり!」
 そんな気合をこめて発した号令は、いつもよりもきれいにコートの中に響いた。きっと赤澤にも聞こえたことだろう。