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セルティと二人で夕御飯の準備をしていたとき、その来客は現れた。



チャイムが鳴ったので、手の離せない二人に代わって新羅が玄関へ行ったのだが、なかなか部屋に戻ってこない。
何事だろうとリビングから顔を覗かせた帝人は、そこにいた人に目を瞬かせた。
見上げるような長身に、黒いスラックスに黒いベスト。首元の黒い蝶ネクタイは中途半端に外されて首元で垂れている。夜でも掛けている青みがかったサングラスに、照明に一際反射している金色の髪。
この人は一体誰だろう。バーテンの格好をしているから、そういう職業の人なのだろうか。でもそういう職業の人も、仕事が終わったら私服に着替えるよね?と首を傾げた帝人に、その後ろから出てきたセルティが『なんだ静雄じゃないか』とPDAに打った。
「しずお、さん?」
『そうだ。新羅の高校の同級生なんだ』
「そうなんですか」
とりあえず関係性については納得した帝人は二人を見た。どうやら夕飯時にやってきた静雄に対して新羅が一方的に非難しているようだ。しかしよく見ると、静雄のバーテン服はボロボロだし、顔には擦り傷がある。全体的に煤けている様子から、喧嘩か事故にでも巻き込まれたのだろう。それで怪我をして新羅のところへ手当てをしてもらいに来たとでもいうところか。
新羅の淀みない口頭に、だんだんと静雄の表情が険しくなってきた。
『どうした静雄、また臨也とやりあったのか』
タイミングよくセルティがPDAを二人の間に滑り込ませる。
「おぅセルティ。……そうなんだよ、もうちょっとであのノミ蟲を仕留められるところだったっていうのにチョコマカと逃げやがって…」
一旦納まった感情が、思い出されてきたのか静雄の額に青筋が浮かぶ。
「あの…、」
トトト、とやってきた帝人が下から新羅を見上げてクイクイと上着の端を引く。
「なんだい帝人くん」
「ご飯もう一人分増やした方がいいですか?」
やってきた帝人を、静雄は驚いたように見下ろした。
「おい、新羅コイツ」
「そうそう、最近僕らが引き取った帝人くんだよ」
「初めまして、帝人です」
「おぅ」
礼儀正しく挨拶をされ、戸惑ったように静雄は新羅を見た。
「こいつは平和島静雄」
「さっきセルティさんから聞きました」
「そう?」
『帝人も言っていたが、静雄も一緒に夕飯を食べていかないか?』
「えー?!折角の家族団欒なのに!」
「新羅さん大人げないです」
『そうだ、今更一人分増えたところで大して変わらない』
入れ入れとPDAで急かすセルティに、静雄はようやく玄関から部屋へ上がることができた。




セルティと一緒に夕飯の準備に戻った帝人を、新羅の手当てを受けながら静雄は見ていた。
「帝人はいくつなんだ?」
「10歳だって本人が言ってたし、実際に戸籍でもそうだったよ」
「ガキっぽく見えるけどシッカリしてんなぁ」
セルティと並んでキッチンに立っている帝人は慣れているのか動きもテキパキしている。
「良い嫁になりそうだな、可愛いし」
「ちょ!静雄には帝人くんはやらないからね!!」
『なんの話をしている』
リビングに出来た料理を運んできたセルティが、呆れたようにPDAを出した。
「だって静雄が帝人くんをお嫁にって」
『なんだと?!帝人はまだ嫁にはやらん!』
「その前に二人とも、僕の性別思い出してくださいね」
セルティの後ろから、同じく料理を運んできた帝人が言葉を挟む。
「は?性別って、」
「ああ、帝人くんは男の子だよ」
「あ?!」
『でも女の子に負けないくらい可愛い!むしろウチの子が一番可愛い!世界一だ!!』
「そのとぉり!!」
いまだに言われたことが信じられない静雄と、妙に力説している二人をおいといて、帝人は一人マイペースに出来上がった料理をテーブルに並べていった。
春雨とピーマン・挽肉のピリ辛炒め、から揚げのレタス包み、ハムとキュウリのポテトサラダ、ブロッコリーの胡麻和え、卵とわかめの中華スープ。テーブル一杯に料理が並ぶ。最後に白いご飯をお茶碗によそって完成だ。
「すっげ…」
久しぶりの家庭の料理に静雄が目を見開く。
『どんどん食べてくれ!ちゃんと帝人が味見してくれたから大丈夫だぞ!』
「セルティが作ったものだったら例え泥水でも僕は平らげるよ!」
「新羅さん、それはお腹壊しますよ……いただきます」
「いただきまーす!」
「……っす」
帝人が手を合わせたのに、残った大人二人も習って手を合わす。その様子をセルティは微笑ましそうに見ていた。
「……うめぇ」
「おいしいよセルティ!帝人くん!」
ちょっと多目に作りすぎたかと思うほどあった料理も、成人男性が二人いるとドンドンと減っていく。
マグマグと小さな口を一生懸命動かして食べている帝人の小皿に、静雄はから揚げとレタスを追加した。
「ちょ、そんなに食べれません」
「もっと食って大きくなれ」
その反対側から新羅にポテトサラダと春雨も入れられる。
「新羅さんまで!」
「いやいや、たまには静雄も良いこと言うじゃないか」
『帝人はもう少しふっくらしてもいい』
「セルティさんもですか?!」
どんどん帝人の小皿の上に料理が増えていった。最終的に全部食べきれなくて、泣きそうになっている帝人の分を平らげたのは静雄だった。
食後のコーヒーを飲んでいる男二人に、セルティと帝人は後片付けをしている。
「帝人が男の子っつーのはホントのことなのか?」
「そうだよ。見た目的にはそうは見えないだろうけどね」
「だよなぁ」
もともとの顔立ちが愛らしいのと、後ろ髪が長いのでどうしても少女に見える。
「あの子も、そうは見えないけど複雑な事情の持ち主でね。縁があってウチに来たんだけど、仲良くしてやって」
「…お前がセルティ以外のことで、人間らしい台詞を聞くことになるとはな」
「これでも父親になろうと一生懸命なんだよ」
「お前が父親とか、笑えねぇ…」
「失礼な!静雄には言われたくないね!」
夜も更けてきて、そろそろ帰ろうとか静雄が立ち上がると、セルティが見送りに玄関まで来てくれた。
「今日はごっそーさん、美味かった」
『よかったらまた来てくれ』
「おぅ、帝人によろしく」
『だそうだぞ、帝人』
PDAを足元に下げたセルティに、同じように視線を下げた静雄の視界に、セルティの足に隠れるようにしている帝人が目に入った。
はにかんだように帝人が笑うと、ポッと花が咲いたような気持ちになる。帝人と同じ目線になるように静雄は屈み、その頭を撫でてやる。
去り際に恥ずかしそうに手を振る帝人に、静雄は久しぶりに癒された気分だった。




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帝人くんの口数が少なめなのは、静雄さんが格好良すぎて恥ずかしかったからです。

作品名:エンカウンター S 作家名:はつき