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【ドタイザ】そういうところが嫌いなのに

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「ドタチンは、嫌いだな」


別に嫌いだと言われることが厭なのではなかった。無論嬉しい訳でもなかったけれど。

「お前、たまにそれ言うよな。思い出したみたいに。」

ただ少なくともこの状況で言う言葉では無いと思う。
なぜなら、俺は今血だらけの臨也を背負って歩いているからだ。

「うんなんか、たまに思い出すんだよね。あー嫌いだったなーって、思う。」

「いつも脈絡無い感じすっけど、なんか気に触ることでも言ってるか、俺。」

「うーん…説明するの面倒。この体たらくだしね」

当の本人にはぼろぼろである自覚は一応あるらしく、しかし声音に悪びれた様子はなかった。
また静雄に下らないちょっかいでもだしたのだろう、家への帰り道、狭い路地で蹲っている臨也を見つけた。
お決まりの黒いシャツが(多分血で)重そうに濡れていて、学生時代から臨也はとびきり寒がりだったことを思い出した。

「ていうかドタチンさ、どれだけお人好しなの。俺降りたら背中、きっとすごいことになってるよ。」

俺なんか捨て置いとけばいいのに。災害がおきたら誰かを助けて一番に死ぬタイプだよね、ドタチンて。あはは、目に浮かぶ。

そう言った臨也は、小さくくしゃみをした。

「どう抱えたって汚れんだから、どうだっていいだろ。」

新羅を呼びつけてなんとかさせようと思ったものの、携帯がつながる気配はなかった。もうあと3時間もすれば日が上る時間ではあれ、あいつなら起きているような気がしたのだが。
臨也は痛そうだというよりもただ酷く疲れた顔をしていて、それに本人曰く血はもう止まっていると言うので、取り敢えず俺の家に運ぶことにした。

「血、冷たくて気持ち悪い。ドタチンの背中はぬるくて気持ち悪い。」

「あとちょっとの辛抱だから我慢しろ。」

大の男を背負うなんて経験は、普通に生きてればなかなかないものだ。
俺も池袋の住人だから真っ当だなんて言う気はないが、背中でぶつぶつ文句を言っているこの男よりは普通な自信がある。

だがこうやって臨也を背負って連れて行くのは初めてではなかった。
こいつ以外の成年男子を背負ったことがないから一概には言えないのかもしれないが、背中の重みはどう考えても平均のそれより軽く、そして冷たかった。
そういえばこいつ昔から体温低かったっけ、と考えて、今日はいろんな事を思い出す日だ、と思う。

「ねえドタチン。お礼にひとついい事教えてあげるよ」

「お礼、か。そんな殊勝な気持ちがお前にもあったとはな」

ひどいなあ、俺はいつでも人間を愛してるし、その存在に感謝だってしてるのに。

そう言ったきり黙り込んだ臨也の口を再び開かせる術を、俺は持たない。
高校時代、静雄から逃げてきた臨也に匿ってと言われ、言いも悪いも答える前に背中の影に逃げ込まれた時も。俺は臨也がふざけるように零す言葉を促す事も、堰き止める事もできなかった。

「…あるところに1人の男がいてね。ちょっと色々あって、そいつはなんだかとても疲れてた。
あーあ、次に目を開けたら目の前が真っ黒か、真っ白だったらいいのに。って思って目を閉じてたら、急に名前を呼ばれて、また元の色々あった世界に逆戻り。例えばそんな時に、人って他人の事、嫌いだなって思ったりするよ。」

臨也の言う事を、俺は完全に理解出来た試しがない。
それだけペラペラ話せるなら大丈夫だな。そんな事ばかり、考えてしまっていた。

「つまりそれが、さっきの『嫌いな理由』か」

「残念、ハズレ。ドタチンはもっと、違う意味で嫌い。」

疲れているのなら別に話なんてしなくてもいい。
でも話したい事があるのなら、俺には止める理由はなかった。

「ねえ今から言う事全部、只の独り言だから。独り言盗み聞きするとかそんな趣味の悪い事、ドタチンはしないよね」

無言は肯定、になっただろうか。

「…ドタチンは、絶対に癒されたくない傷を、側にいるだけで勝手に癒しちゃうから、嫌い。一生許されたくない事とか、まるで許されたみたいな気持ちになるところが、すごく厭。」

今夜は月が高く出ていて、少し視線を落とすと力の抜けた臨也の足がはっきり見えた。

「…何もしてないし、出来ないのにな。」

口を付いて出た言葉に、臨也は抗議するかのように足をバタバタと動かす。

「何盗み聞きしてるのさ。ドタチンのエッチ」

「何も聞いてないし、今のも俺の独り言だ。盗み聞き魔はお前。」

臨也の位置が少し下がってきたので、なるべく衝撃の少ないように背負い直す。

痛いな、怪我人には優しくしてよね。
微塵も痛くなさそうな声でそう言うと、臨也は本当に独り言のように呟いた。

「何もしてない出来ない、だってさ。笑っちゃう。そういうところが…嫌いなのに。」