樹を降りる
明るくわかりやすい解説に、おれは降参した。若いのにたいしたもんだ。うちのゾディアック――はともかく、坊ちゃんは同じようにふるまえるだろうか。
「なるほど。そう言ってもらえるとこちらとしてもありがたい。また必要ならば、手伝わせてくれ」
「うん。こちらこそよろしく。いやーやっぱりね、わたしたちを見た瞬間、子供の遠足になんかつきあってられるか! とか言う人も多くてねぇ」
モンクは肩をすくめ、首を横にふる。――同業の連中の感想はもっともだとも考えたが、それは口にしなかった。
「しかし、それだけの腕がありながら」
そう言っておれは、戦利品を確認しているファーマーたちをみた。まるで、ピクニックのお弁当でも広げているみたいな微笑ましさがある。
「うん?」
「下を目指してはいないのか?」
おれの問いに、モンクは幾度かまばたきをした。そして、無理だよと言って笑いだす。
「ファーマーばかりのギルドだよ? 無理だってば。わたしたちはすでに開かれた場所で、街のみんなが必要としてるものを持ち帰るのがせいぜい。それも、誰かに手伝ってもらわなきゃいけないくらい」
確かに、この四人がというならば、このあたりはともかくもっと先ということを考えれば、かなり厳しいものがあるだろう。しかし。
「そうでなく。――君ならば、どこのギルドでも歓迎すると思うが」
樹海の中での動きの切れ。さらには気功とかいうらしい治癒の技。そして、今まで接してきた感触だけではあるものの、気性の明るさと頭の回転の良さも大したものだ。毛皮を深くかぶっているのかもしれないが、うちのギルドの、岩のような堅物や、ひねまがりすぎて複雑骨折したような輩ほど、ひどいということはないだろう。少なくとも、一言も口を聞かない少女よりははるかにつきあいやすいに違いない。深部に足をふみいれ、巨大な魔物をほふるようなギルドはともかく、このあたりをうろうろするのが精いっぱいのギルドからならば、引く手あまたとなってもおかしくはないだろう。
だが。おれの言葉に、モンクは口の端を引き上げて言った。
「興味ないね」
たった一言、ある意味にべもない拒絶に、おれはそうかと頷く以外の手段をもたなかった。
表情に何か出ていたのだろうか。モンクは、目を細めつけくわえた。
「ま、もしかしたら、お店に行ったときにわかるかもしれないよ」
こういうの、してないギルドなんでしょう? と。その言葉に、おれは頷いた。
*
しばし後、戦利品を確かめ終えたファーマーたちが互いに頷きあった。十分すぎるほどの収穫だとのことだった。それではと、日はまだ高かったが、街へと戻ることにする。
おおと表情を輝かせて、店主が獲物を勘定しはじめる。うちのギルドが行ったときとは別人のようなほくほく顔で彼女は代金を差し出した。
先ほどのモンクの言葉が、少し理解できたような気がする。……いかん。
ほんの少しぐらついた心を後ろめたく思ったわけではないが、おれは酒と菓子を手土産に宿へと戻った。
fin.