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【AB!】ぬるいぬるいイチゴミルク【音日】

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「どうしたんだよ日向、まるでこの世の終わりみたいな顔して」

「違っ…いや、お前なかなか見つからないし、走ってちょっと疲れただけだ、よ」


日向が切羽詰った顔で走ってきて、俺がお子にいると気付き次第安堵に頬を弛めたことを、俺は指摘しないでやろうと思った。
日向は肩で息をしたまま、寝転ぶ俺の額に何か四角いものを乱暴に乗せる。
容赦なくぶつけられた痛みへの抗議を込めてそれをすぐに手に取ると、自販機で売っているパックのジュースだった。

「お前、随分かわいいの飲んでんな」

体を起こして手の平のいちご牛乳を見る。日向はバツが悪そうに、こちらから目をそらした。

「いや、間違えて2つ買っちまったし、サボろうとしたら音無もサボってたみたいだったからこの日向さまがおごってやろう、っつうか押し付けようと思って、
でもお前、いつもの屋上にいないから、」

普段サボる時の場所にいなかったことに他意はない。
ただなんとなく、先客がいなさそうな所で時間を潰したい気分だった。
思ったとおり俺の先には誰もいなかったけれど、今は目の前に、日向がいる。

「日向は」

「…へ」

「お前は、何買ったんだ」

ん、と言って差し出された手にはリンゴジュースが握られている。

「女子かよ」

思わず笑いが滲んだ言葉に、日向はうわべだけむっとしたようなフリをする。

「俺の金なんだから何飲んだっていいだろ!んだよ、文句言うなら両方俺が飲むぞ」

「悪い悪い、サンキュな」

俺の物になったらしいいちご牛乳にストローを突き刺す。
口の中に流れ込んできた甘ったるいいちご味は、想像よりも酷くぬるかった。


「…ぬる過ぎないか、これ」

と最後まで言うのと、日向がギクリとして俺の手からいちご牛乳をひったくるのと、どちらが早かっただろうか。
まずい事になった、という言葉を顔にありありと貼りつけて、日向は恐る恐るストローに口をつける。

「…っぬる!」

と叫ぶが早いかさっき屋上に登ってきた時と同じようにもう一度、まるでこの世の終わりだという顔をして日向はパックを俺に突き返す。

「そんなに吃驚する事ないだろ。お前のりんごだってどうせ同じ位のぬるさなんだろうし」

俺はお留守になっていた日向の左手からりんごジュースをとると、日向とは違ってためらう事も無く飲んでみる。
いちご牛乳と一緒に買ったと思っていたりんごジュースはまだまだ冷たくて、爽やかに喉を通り抜けて行った。
俺が無意識に怪訝な顔をしてしまったことに気付いたらしい日向は、言い訳めいた口調で口ごもる。

「いやその…」

さっきからこいつはバツが悪そうな顔ばかりしてるな、と、狼狽えて何かを取り繕うとする横顔を見てぼんやり思った。

「こっちは…そこの近くの自販で買ったから…」

日向は俺にいちご牛乳を渡した理由を、間違って2つ買ったから、と言った。
わざわざ違う自販機でどうやって、間違って2つ買うなんて事ができるんだ。
俺の思考は楽にそこまで到達する。
でも、それを聞かないでいてやるのも、優しさなのかもしれないと思う。
優しくするのは酷くするよりよほど簡単だ。
だから俺はいつも、こうやって優しさに逃げてしまう。

でも日向はそうじゃない。
面倒だからとか後ろ向きな理由で、誰かに優しくしたりしない男だ。俺とは違う。

だからつまり、そんな日向がわざわざいちご牛乳を買ってくれて、
たとえばその後その不自然さに気づいて言い訳に自分もりんごジュースを買って、
血相を変えて走り回って俺を探して、
見つけたら安心して、
聞かれたら嘘をついて、

半分は馬鹿みたいな仮説だし、嘘寒い希望的観測かもしれない。

だけどさ日向、つまりは、そういう事だと解釈してもいいんだよな?




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ばれた、と思った。
ちょっと疲れてたみたいだから甘い物がいいと思っていちご牛乳を買ってしまったことも、
教室に帰ったら音無がいなくて妙に焦って走り出してしまったことも、
その途中でいきなりで気味が悪いかと心配になってもう一つりんごジュースを買ってしまったことも、
それからそれから、
一番隠したくてでも一番知って欲しい、俺がそんな事をしてしまった理由も。

音無が何も言わないのは、その方が俺が楽だから。
正しくは、楽だから、と、少なくとも音無は思っているから。
音無は俺と違って頭がいいし心の機微ってやつに聡いから、きっと何も言われない方が本当は、俺自身楽なんだと思う。音無の対応は正しい。



そうだ、だからきっと、
いっそすべて暴いてくれたらいいのにと思う俺の方が、どうかしてるにきまってるんだ。