幼馴染パロ 短編集
知ってます、知っているんです・日常が、幸せなの
<知ってます、知っているんです>
「だからどうして臨也は毎晩僕のベッドにいるのかな」
「温めてあげたんじゃない。冷たいベッドと冷たいお風呂は嫌でしょ?俺の優しさだよ、帝人君への愛が溢れてるよね」
「かけ流しで溜まってないんじゃないの」
大きめのベッドからひょこんと顔だけ出している臨也のおでこを爪で弾く。
たいして痛くないデコピンにへらへらと笑いながら、臨也は両手を突きだした。
腰をかがめた帝人の首元からタオルを抜き取る。
髪の毛を伝って冷たい滴が臨也の腕に落ちた。
「また髪乾かさないで出てきちゃったの?風邪ひくよ」
「このくらいならへーき。真冬のプールに落ちてもぴんぴんしてた臨也ほどじゃないけど」
「その話ひっぱらないでよ。シズちゃんが悪いんだ、人のこと窓から投げるとかどんな頭してるわけ」
「下がプールだったのが、臨也に対する最大限の優しさだよね」
ベッドを背もたれに床に座り込んだ帝人へ、帝人君のいじわるーと言いながら、濡れた髪に顔を埋める。
ちゅっとつむじにキスを落としてから、タオルで髪の毛を優しく包むように乾かしていく。
「かゆいところはございませんかー?」
「ははっ、ありませーん」
「マッサージはいかがですかー?」
「おねがいしまーす」
丁寧に水分をぬぐった髪に指を通す。
さらりとした手触りを楽しんでから、頭皮を指の平で少し力を込めて押していく。
それをしばらく続けていると、帝人の首がふらふらと安定しなくなってきた。
手を止めて顔を覗き込めば完全に瞼が閉じてしまっている。
「帝人君はおねむですかー?」
「うー・・・ん・・」
もにょもにょと口を動かしていたけれど、すぐにそれは穏やかな寝息に変わった。
揺らさないようにベッドから降りると、いつにない慎重さで帝人の体を抱き上げる。
そっとベッドに押し込むと、自分も横へと潜り込み落ちないように壁と自分の体で帝人を挟む。
肘を立てて帝人の体に覆いかぶさると、全開のおでこに口づけを落とした。
こんな慈しむような所作がらしくないのはわかっているけれど、臨也はいつだって帝人の前ではただの人間でいられた。
一人の人を愛して、愛されたいと願う、ただの人間だった。
「・・・ね、好き。最初から最後まで、君がすき」
起こさないように静かに、けれどしっかりと帝人の体を抱きしめる。
ん、と可愛らしい息を漏らす唇に触れるか触れないか程度のキスをして、臨也も目を閉じた。
(幸せ、しあわせ・・・あぁ、三千世界の鴉がいるのなら、今すぐ殺してやるのにさ)
+
<日常が、幸せなの>
「臨也のいない日曜日って、平和だねぇ・・・」
「毎日こうだったら、俺ももう少し名前に恥じない生活送れる気がすんだよなぁ」
情報取るためにデートしてきまーす!浮気じゃないよ仕事だよ!と叫んだ臨也が手を振り振り出て行ったのは1時間ほど前。
将来は情報屋になる、と宣言し、その非日常的職業に帝人が喜んだので、張り切った臨也は特に休日は外へ出ていくことが多い。
かと思ったら一日中帝人にくっついていたりと、せわしなく主張が変わるので、結局臨也の行動はよくわからないままだ。
静雄は大概家にいて、細々と帝人がしている家事を手伝ってくれる。主に力仕事的な意味で。
普通の日常生活を送るうえでは静雄の怪力も悪い方向へは発揮されないので、最近の趣味は日曜大工と料理になってきている。
完全に日曜日の父親スタイルだが、見ていて面白いので帝人は黙ったままだ。
「今日のご飯は何にしようか?」
「肉食いてぇなぁ。外にバーベキューセット出してやるか?」
「それいいかも」
ぽかぽかした日差しのさしこむリビングで、ソファに寝転がっている静雄が提案する。
そのソファにもたれかかり静雄の腹横に頭を置いていた帝人が、バーベキューセットってどこおいてたっけ?と呟いた。
「庭の物置じゃねぇか?あんま使った記憶もないけど・・・あ、いざとなったら俺ん家にある。出してくるか」
「じゃあ静雄のお父さんたちも一緒にする?どうかな?」
「どうだろうな・・・あとで聞いてみるか」
視線を下へ向ければ、穏やかに笑う帝人の顔が見える。
そのまま手を伸ばしてちょうどいい位置にある帝人の頭を撫でまわすと、細い首がたよりなく揺れた。
「しーずお」
「うん?」
頭を撫でていた大きな手を掴んで立ち上がると、寝転んだまま首を傾げる静雄のお腹に乗っかる。
帝人の体重では重圧すら感じていないようで、不思議そうに目を瞬かせるだけだ。
そのまま上半身を倒すと、ちょうど心臓の真上に耳が当たる。
とくん、とくん、と響くその音に安堵して目を閉じた。
「なんだ眠いのか?」
「んー、平和だなぁって」
「あぁ・・そうだな」
猫のように体の上でまどろんでいる帝人を、そっと力を入れすぎないように抱きしめた。
足までからめあうと、まるで1つの生き物になったみたいだ。
まだ丸みのある帝人の柔らかい頬が胸に当たる感触が心地いい。
「静かで、あったかくて、一緒にご飯考えたりして・・・へーわ、だねぇ・・」
「あぁ。平和で・・・幸せだ。お前は?」
「・・ん・・しあわ、せ・・・」
ぽんぽんと背中を軽いリズムで叩くと、呼吸がどんどん長く穏やかになっていく。
とろとろと眠りに沈んでいく帝人を見て、静雄も目を閉じた。
(このまま、目覚めなかったら、ずっと2人きりなのか・・・幸せなまま、ずっと、ずっと・・・)