School Days 4月 side狩沢
Side Karisawa Erika
四月
私は思い切って東京、池袋の真ん中にある来神高校に入学した。
登校中に擦れ違う人の数は数え切れないぐらい多くて、人の間を流されて学校に通っているような気持ちになる。人の間を流されて数十分すると、高層ビルの間に建つ来神高校の校門が見えてくる。人の波にいる一部の人間はその波から遠ざかるように校門の下をくぐっていく。
来神高校には制服が存在するがあってないようなものなので、ぱっと見ただけではその人が来神高校の生徒であるかどうかは判断し難い。ちなみに私は正規の制服を着用している。他には学ランを着ている人がいたり、よく分からない謎の服を着ている人を見かけたりする。
入学して数日するとだんだんクラスにも慣れてきて、周りの席の人と話す機会が増えた。
「おはよっ、絵理華―」
「おはよーっ」
「ねぇ知ってる?来神高校って三年生に”化け物”がいるんだって」
「化け物?ゾンビ的な?巨人的な?二次元にしか存在しないような”化け物”だったらGJだよね、三次元」
「絵理華・・・難しいよ」
「あっ、ごめんごめんーあはは」
「謝る気さらさら無いし!で、なんかその人何でも壊せるらしいよ」
「怪力タイプ!!っはー、そんな人存在するの!?」
「みたいだよ?学校内でよく暴れてるみたいだし」
「へー、私はまだ見てないなぁ」
「私も聞いただけだからなー・・・本当にいるかね?」
友達に興味深い話をされ、会ってみたいなぁと少しだけ期待に心を膨らませていると校舎の何処からかとてつもない破壊音が聞こえた。まるで漫画の中の効果音のような音。と同時にいざやあああぁぁぁ、と地響きのような低い唸るような声が響く。ふと窓の外を見ると傘立てが校舎の中から外に飛んでいくのが見え、その後すぐに短ランの学生が走っていくのが見えた。そして、すぐに靴箱を片手に走っていく短ランの人を追いかけて走っていく金髪の人が現れた。
「いざやああぁぁぁ!てめぇ、何で一緒のクラスになってんだよ!?」
「知らないよ、俺だってシズちゃんと一緒のクラスとかほんとごめんなんだけど」
「俺のほうがてめぇより何千万倍と嫌なんだよ!!」
叫ぶように相手に話しかけるので何を言っているかは実に明瞭に聞き取れた。
ぶんっ、と金髪が持っていた靴箱を短ランに勢い良く放る。短ランはひょい、と避けると近くのベンチの上に立った。
「今年の担任の教師は新任だったんじゃない?俺たちを一緒にするなんてほんと最低だね。馬鹿とかじゃ済まされないよ」
「それはこっちのセリフだ。ノミ蟲が!」
金髪は短ランの立っているベンチとは違う、別のベンチに手を掛けるとまるでそれが無重力空間に放り込まれたように浮かび上がる。
「うわー」
「ベンチ持ち上げてる。しかも片手で」
「人間じゃねぇよ」
「さっき飛んでいったの傘立てだろ?」
「今飛んでいったの靴箱だったぜ?」
教室でざわざわとそんな声が聞こえる。
私は二次元にしか存在しないような人間が三次元にも存在していたことの喜びの方が濃かったので、そんなざわめきには耳を貸さずに窓を開けて食い入るようにその光景を眺めた。
「今話してた人?」
「たぶんっていうか絶対そうだよ。見た?今の怪力。こわー・・・・・・」
「まじスゴイよね!私感動しちゃったよ!この感動をゆまっちにも伝えないと!」
「ここ感動するとこ!?えーと、中学のときの友達だよね?」
「そうだよー。私の親友だよ」
「絵理華ちゃんと渡り合える人なんだよね。それこそ感動だよ」
「ちょ・・・・・・何でっ!?」
金髪が一度手にかけて地面につけていたベンチを持ち上げなおし、それを投げようとした時に昇降口の方からまた二人の人がやってきた。
二人は暴れていた二人に二言、三言何かを話すと金髪はベンチを元の場所に戻し、短ランはベンチの上から降りて、四人で校舎の中に戻っていった。
「キャーちょっと四つ巴!?しかもBLktkr!?」
「ここテンション上がるとこ?何で同じ学校内にあんな人間いるわけー!?」
「いいじゃん、素敵じゃん」
それを聞いた周りのクラスメートが私に話しかけてきた。
「素敵とかじゃないでしょ!?あの”化け物”」
「絵理華は短絡的でいいよねー」
「あんな”化け物”がいるんだったらこの学校に入らなかったらよかった」
「安全な学校生活が送れると思う!?絶対無理でしょ!?」
と口々に喋る女子の話を耳の右から受け左に受け流しているとチャイムが鳴った。がさがさと窓の周りにたかっていたクラスメートは自分の席に戻りだす。私は窓側の席なので少し後ろにさがればいいだけだ。
「何、今の言い方」
「いいよいいよ、私は気にしてないからさ」
「そーお?」
「うん、さっきの感動の方が大きいからね。っていうかここは二次元!?」
「三次元だよ。戻っておいで、絵理華」
そして日常、いつものように普通に授業を終え普通にホームルームを終えると友達に別れを告げ、最近毎日通っている図書室に足を向けた。
周りの友達は私が本を読むことを知ると至極意外そうな顔をする。私だって色んなジャンルの本読むよ!?主に電撃文庫だけど。
ガラと図書室の扉を開けて中に入ると、本独特の匂いで体の周りを包まれる。このどこか優しくて、懐かしい匂いが個人的には凄く好き。
カーテンから細い太陽光が差し込んで本棚の一部を明るく照らす。図書室に入り少し奥の方へ進んでいくと、たぶん普通の学校の図書室じゃ置いてないような本がその姿を現す。
「学校で電撃文庫が借りられるなんてほんと天国!」
私のためにあるんじゃないか、と思ってしまうぐらいで。やはり他の伝記とか参考書に比べれば圧倒的にその本の図書室に占める割合は少ないが、それでも無いよりは断然いいので全然満足。
初めはオーソドックスな、普通の学生が一般的に読むような本をぱらぱらと読んでいたが、わりと広めの図書室を何処にどんな本があるか頭の中に入れ込むためにてくてくと歩いていると例の本棚を発見したのだ。
本棚に並べられている本は大体読み終えたものばかりだが、また読み直すのもいいかと思って数冊手に取ると近くの椅子に座り閉館時間近くまで熟読する。読み終えた分は本棚に戻して、また数冊続きの本を手にするとカウンターで借り出し手続きを済ませ図書室を出る。そして家に帰るとまたその本の続きを読み始める。
これが私のまだ出来たばかりの新しい日常だった。
作品名:School Days 4月 side狩沢 作家名:大奈 朱鳥