街路樹
左には黄色く色付いたプラタナスの樹、右にはメイプルの紅が遠くまで続いている。
ドイツは夕陽に照らされた紅い葉の色に惹かれた。
書類袋を片手にその葉を見上げながら歩く。
オレンジの陽に照らされたそれは、温かな何かを連想させた。
こうしてずっとこの葉の中を歩いていたい。ドイツはそう思った。
しばらくして、ドイツはふっと小さな淋しさを覚えた。何かが足りない。
立ち止まり、足りないものは何なのかを考える。その耳に、木々のざわめきだけが響いた。
この温かな黄味がかった紅は自分の中ではこんなに静かなイメージではないな。ドイツはそう思った。
微かに鼻歌が聴こえた気がした。
その方向に目をやると、プラタナスの樹を見上げながら踊るように歩く青年の姿が見えた。秋風が鼻歌の主の髪を揺らす。
揺れた髪は夕陽に照らされて紅に染まって見えた。
「…イタリア?」
「あっ、ドイツー!」
イタリアは自分を見ているドイツに気付き、零れるような笑みを湛えながら大きく手を振った。
黄の中を歩く青年と紅の中を歩く青年が向かい合ったのは、2種の樹が交差する場所だった。
「きれいな紅葉だねー!ねぇドイツ、夕方のプラタナスの黄色って、ドイツの髪の色に似てるよー、俺この色好きだぁ」
イタリアは目を輝かせてそう告げながら、仔犬のようにドイツにじゃれついた。
「ドイツはメープルを見てたの?これすぐに散っちゃうみたいだから見れてラッキーだったね!…メープルも綺麗だねぇ」
そう言いながら紅を見上げるイタリアの髪を、ふいに再びの秋風が散らした。
「あぁ…そうだな」
碧い瞳は優しく弧を描きながら、風に舞い陽に照らされて紅に染まる髪を見つめた。
「綺麗だ」
足りないものが何だったのか、解った。
ドイツは心の中でそう呟き、柔らかく微笑むイタリアの目線の先にある紅い葉を見上げた。