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【ドタイザ】甘楽ちゃんの言葉遊び

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「臨也、か」

「残念!今は甘楽ちゃんでした!いい加減見分けつくようにしてよね」

「見分けはついてるんだけどよ、臨也だったらいいっつう希望的観測だ。自分の判断も信じきれないしな。」

「甘楽」は、臨也の第二の人格だ。こいつが出て来ている時は臨也にも記憶が残らず、その行動は臨也自身にも与りしれないらしい。
高校の頃から屋上で俺の横に昼寝していた臨也がむくりと起き上がったこと思うと「甘楽」を名乗ることが何度かあり、曰く臨也に戻ったという時の横顔が酷く寂しげだったこともあって、俺はもう疑うのを放棄していた。

しかしそれは「甘楽」の存在を許した訳ではなく、それでいて拒絶しようといつ気持ちもなかった。
時にはなんとか穏便に出ていってもらうことは出来ないのかと考えたこともあったが、臨也の不安定な部分を形作ると同時に支えているのも「甘楽」なのかもしれないと思い至り、結局何の解決策も見出せずになあなあなまま、というのが現状だ。


「ねえ、もう言った?」

「…誰に」

あからさまに怪訝そうな声で眉を顰めてみる。
臨也を相手にするより余程直接的に振る舞うのが、いつからか癖になっていた。

うふふ、と笑った「甘楽」は両腕を体の後ろに組むと、こちらにもう一歩近付いて俺を見上げた。

「甘楽ちゃんね、ドタチンの、こういう時に『誰が』って聞かない所が大好き!
 でもそれ以上に『何を』って聞かない所は大っ嫌いだよ!
 だって聞かないってことは分かってるか、少なくとも分かってるつもりだってことでしょう?
 あのね、とっても不愉快!」

話の内容とは裏腹にその口調はとても楽しげで、俺はため息をつかざるを得なかった。

「別に他意は無いかもしれないだろうが。それに」

ひと呼吸おいて、言葉を続ける。

「聞いても答えないからって、諦めてる可能性もあるだろ」

「ううん、それどころかさっきの『誰に』だって反語だよね。甘楽ちゃん知ってるんだから。
 そういうところがたまらないんだと思うな、臨也には」

俺の右腕をとって抱きしめ、嬉しそうに頬をすり寄せる「甘楽」はどこからどうみても臨也で、しかし確かに臨也ではなかった。
こいつを知る人間がこの現場を見たら厄介な事になるのは火を見るより明らかだ。

「甘楽ちゃんは臨也で臨也は甘楽ちゃんだから、甘楽ちゃんは臨也にもそれなりには幸せになって欲しいと思うけど、でも甘楽ちゃんは甘楽ちゃんが楽しいのが一番だから、別にこのままでいいの。臨也と一緒でしょ?」

少し乱暴に「甘楽」を体から引き剥がす。
不気味に苛立たちを覚える自分が「不愉快」だった。

「…向こうはそうは思ってないかもしれないぞ」

「じゃあさ、ドタチンはどう思う?甘楽ちゃんと臨也、似てると思わない?」

そろそろ臨也に「戻って」来る頃だろうか。
近頃、「甘楽」から戻った後の臨也は、まるで時効寸前で犯罪が露見した逃走犯の様な顔をして逃げようとする事が多くなった。
そんな状態で逃げだされてもろくな事にならないのは目に見えていたから、逃亡を未然に防ごうと身構える。

「だいたいお前の意見と正反対だな。」

「矛盾だねえ。だいたい、じゃないから正反対って言うのに。
 でもだったらその言葉、臨也に言ってあげてよ。きっと喜ぶよ。」

言葉尻を捉えられては俺は臨也にも、「甘楽」にも勝てない。

「だから向こうは、そうは思ってないかもしれないだろ。」

「そう思うのは自由だよ。
 でもこのままだと甘楽ちゃん、一人で得しちゃうな。臨也が欲しい言葉は甘楽ちゃんが全部、もらっていっちゃうんだもの」

「甘楽」の口許に初めて見えた自嘲はいつもの笑みにすぐ掻き消えて、「じゃあまたね」と言うが早いか「甘楽」の目は臨也の目に「戻った」。
昔からこの瞬間だけは絶対に見逃すまいとしてきたので、本当は誰よりも早く気付ける自信がある。

同時に足元をふらつかせた臨也を支えるふりをして抱きかかえ、小さく「もう二度と出てくるな」と言った。
顔の見えない臨也が驚いているのが分かる。

「他意」を、臨也が知る必要はない。