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【10月10日スパーク】よあけまえはいたい【サンプル】

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夜の訪れよりも前のことである。


「拒否します」
ヴァローナは明確に否定を示し、帝人とトムを瞬きさせた。帝人は学校帰り、静雄経由で仲良くなっていたトムに簡単な挨拶をして立ち去ろうとしていた自分に向けられた言葉に瞬きをする。トムはびっくりして固まった帝人に不憫なものを見るかのような視線を送りながら、口先だけでヴァローナを嗜める。
「拒否もなにも、高校生はそろそろ家に帰る時間だべ」
「家への帰宅、否定しません。帰る場所の存在、幸福です。しかし相手が竜ヶ峰帝人の場合、否定です。私は不愉快です」
個体として限定された帝人は、おろおろと視線を彷徨わせ、トムにちらりと助けを求める。トムもぎこちなく笑いながらヴァローナの肩をぽんと軽く叩いた。
「お前の言い分は事務所帰ってから聞くから」
「竜ヶ峰帝人を拉致捕獲後事務所へ帰還。考慮の価値ありです」
帝人は ぴ と高い悲鳴を上げ、淡々と無表情のまま言い放ったヴァローナと乾いた笑いを浮かべるトムを交互に見つめる。トムはぽりぽりと頬をかきながらもヴァローナを見つめて ううん と迷うように声を上げた。帝人はいたたまれず視線を下げ、あの、と声を返す。ヴァローナは生真面目な様子で帝人に向き直り、こくりと一度頷く。トムは事態が飲みこめていない帝人と、確信を持って帝人を離すまいとしているヴァローナとの折衷案を思いつき。じゃあよぉ と怠惰に声を上げた。
「一服でもすんべよ」
「あの、やっぱり僕 かえ、帰ります…」
ファーストフード店に連れ込まれ、左右をトムとヴァローナに挟まれた帝人はぷるぷると震えながら呟いた。シェイクを飲みながら帝人の言葉に眉を潜めたヴァローナを、トムは静かな調子で嗜める。
「まぁまぁ、男子高校生連れ込んでんのは俺らだべ?けどまあ注文しちまったからな。これ食べてからでもいいだろ」
晩飯用意してたなら悪いことしちまったけどな。トムの言葉に
帝人はふるふると首を振り、気まずそうにハンバーガーをもそもそと口に運ぶ。苦学生には降ってわいたような幸運ではあるが、食べるごとに顔の整った外国人に見つめられていてはおちおち食べた気にもならない。帝人の動揺を見透かしたのか、トムは溜め息をついてヴァローナにポテトが冷めるぞと呟いた。
「…承知しました」
ヴァローナは素直に帝人から視線を離し、もぐもぐとポテトを口に運ぶ。数分間ほど見つめられ続けていた帝人は半分ほど泣き出しそうになりながらも飲み物を無言で啜り続ける。トムは申し訳なさと愛護精神両方を抱えながら帝人の頭を撫でた。
「悪いな、静雄に連絡したから、あいつが帰ってくるまで居てくれねぇか?あいつに送らせたら まあ夜道も安心だからよ」
「あ、そんな、お気遣いなく…けどそうですよね、静雄さんがいたら安心です」
思わず零れてしまった笑顔のままに帝人が声を上げると、ポテトを啄んでいたヴァローナが不快そうに眉を潜めた。隣から届く冷え冷えとした空気に帝人が笑顔のまま凍りつく。
「先輩との帰宅、反対です。送り狼の事態、危険です」
「…ヴァローナは何だ、日本語がちょっとまだ分かってないところがあるんだ…ってことにしといてくれや」
帝人は器官に入りかけた飲み物をどんどんと喉に戻しながら、ヴァローナの言葉にフォローをかぶせたトムに頷いた。如実に感じる非日常の気配に疼きかけた好奇心から視線を外し、帝人はただ黙ってハンバーガーを摘まみ続ける。ブラックコーヒーを飲みながら困惑し続ける男子高校生と、少年を観察しつづける部下を見つめ、トムは首を傾げた。
(よくよく厄介な奴に好かれる坊主だよなぁ)
帝人を不憫な心境で見つめていたトムは、彼が瞬きをしてトムをちらりと見上げたのに心臓を跳ね上げる。なんだ、と困惑するよりも早く、帝人は ありがとうございます と声を発した。
「奢っていただいて、お礼も言ってなくって」
「…あ、ああ。礼なんかいらねえよ。こっちの都合だしよ」
トムは何故自分が狼狽しているのか気付かないまま息を落とし帝人へ声を上げた。帝人は けど と呟きながらも、もう一度トムとヴァローナへ頭を下げる。ヴァローナは帝人を見つめていたが、やがて 不可解です と呟いた。
「私は幸福です。竜ヶ峰帝人、貴方と共に栄養を補給、幸福の極みです。感無量です。竜ヶ峰帝人は不幸ですか」
「え?いえ、不幸ってわけでは…」
不幸でないのならば俯く必要は皆無です。ヴァローナはポテトを口に運びながら瞬きをして帝人を見つめた。帝人の戸惑いはやがて苦笑に変わり、少年はポテトを咥えている美人を見つめながら笑みを零した。
「そうですね、有難いことなのに」
おかしい。帝人はくすくすと笑いながらヴァローナを見つめた。ヴァローナは不思議そうに眉を歪め、胸を押さえて首を傾げる。
「心拍数の乱れ、体温の上昇、把握しました。私は照れている、理解です。竜ヶ峰帝人、やはり貴方は要注意が必要です」
「…えっと…」
帝人がきょとりと瞬きをして首を傾げる。始まったよ、トムは目を細め、サラダを口に運んでヴァローナの真っすぐな視線に射抜かれておどおどと視線を彷徨わせる帝人に心中で合掌した。
「貴方は私にとって一生ものの価値を含んでいる、了解です」
目をぱちくりとさせながら帝人がヴァローナへ視線を向けていると、自動ドアが軽快な音と共に開き、トムはちらりと視線をドアに寄せてひらひらと手を振った。静雄は彷徨わせていた視線をトムへと移し、そのまま視線を帝人へスライドさせていく。
「…マジでいたんだな」
静雄は瞬きを行いながらもサングラスを外し、帝人を見下ろして 悪いな と呟く。ヴァローナは静雄と帝人を見比べ、遺憾です、と呟く。静雄は淡々とした表情でヴァローナを見据え、首を傾げた。
「先輩と竜ヶ峰帝人の間の空気、非常に遺憾。本心です」
私がもっと。ヴァローナは呟きかけ、トムをじっと見つめて唇をつぐんだ。トムは瞬きを繰り返し、帝人の頭にぽんと触れた。
「また会おうや。今日はこれでな」
トムの言葉に、帝人は笑って頷く。不満そうに頬を膨らませていたヴァローナも、また、と帝人に手を振った。

夜の始まる、その前のことである。