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「記念日を大切にしない男は嫌われるんだってさ」
「ああ?」
「副都心が言ってた」
幸いにして天気は晴れ。暑さが引っ込んだ途端に駆け足でやってきた秋に肩が震える、そんな午前。心なしか背筋が伸びる、見慣れたホーム。なんでもない一日だとは、どうしても思えないから、特別なんだと解釈して前を歩く柄の悪い影に言葉を投げた。
「だから今年はきてくれたんでしょ?」
「知るか」
影は立ち止まらないで階段を上がる。エレベーターを使えば良いのに、前にそう言ったら、
「客が使うもんだ」
とか何だとか言って、息を切らしながらあがっていたことを思い出す。今日は文句を言わずにその後ろをついて歩く。僅かに左に傾く癖のある歩き方に、過ぎていった月日を思ってらしくなく胸がざわついた。そんな日じゃないのに。
「ツンデレキャラ被るから言い方気をつけてよ!」
「おまえなぁ……」
上りきって、ようやく振り返った三田の顔を見て、一度はいつもどおりの答えを返す。けれど今日はそれだけでは終わらない。自分でも幼いと思う笑顔を引っ込めて、口元を三日月に引き締めた。
「ねぇ、三田さん」
驚いたように目を見張るのが面白くて、結局はいつもどおりの笑顔が咲く。ぐい、と顔を近づけて首をかしげた。東西にだってしたことない接近大サービスで、口をつくのは返事を期待しない自信過剰な言葉。
「有楽町より僕のほうがよかったでしょ?」
「んなこと知るか。……でもまぁ……悪くねぇな」
ほらやっぱり、この人はやさしすぎる。
「じゃあ今日はみーたんの奢りでご飯決定ー」
「なんでだよ!」
「浅草とか呼ぶでしょ?あ、僕だけど、うん、みーたんが奢ってくれるって。うん、東西も呼ぶから六人かな」
「ざけんな!南北!」
ひらりと罵声をかわして三田を追い越す。携帯を耳に当てたまま、南北は地上へと向かった。
「これからもよろしくね、三田さん?」
「ったく……」
10th Anniversary!!