貴方の威力
『ありがとうな! おれ、がんばるぞ! だからお前もがんばれ!!』
薄暗い店の中で、携帯の画面が煌々と光っていた。
簡素な一文メール。
ハンコックは、そのメールに未だ返事をしきれていなかった。
ただ、見つめるばかり。
「――そんなにひどい内容だったのか?」
隣でウィスキーの氷を鳴らしながら、ミホークが尋ねる。
二人はスーツのまま、バーのカウンターに座っていた。
「そんなわけないじゃろう」
ハンコックは、携帯を置きグラスを取る。
一口、二口、ワインを飲み、また携帯を開いた。
「ルフィは優しい……」
黒い文字だけのメールだったが、それでもハンコックの胸は締め付けられた。
「でも、鈍いんだろう? 少しもお前の想いに気づかないと」
「ああ、そうじゃ。気づいてくれはしなかった。こちらは懸命だったのに、な。あっさりと、普通に返されてしもうた」
「それはもう聞いた」
ミホークの気を遣おうともしないそっけない言い方が、今は心地いい。
「だから、わらわも、何もなかったように返したんじゃ。これまで通りに……」
「……阿呆だな」
「うるさい。何回目じゃ」
「18回目だな」
「黙れ」
「阿呆」
カラリと彼の手の中にあるウィスキーが鳴る。
その音にすら馬鹿にされたようで、ハンコックはミホークから顔を背けた。
「……わかっておる」
ぐいっ、と一口でワインを飲み干す。
「私が阿呆だというのはわかっておるのじゃ」
タンッ!と音を立て、カウンターに叩きつけるようにグラスを置いた。
きっ、とミホークを睨みつける。
「――わらわは、がんばろうと、思う」
噛み締めるように、言った。
「せめて、ルフィがわらわに魅力があると気づいてもらえる位な女になりたい」
「……単に、それに気づかないくらい向こうが未熟なだけかもしれないが」
「例えそうだとしても……わらわの気持ちがルフィに響かなかったのは確かじゃ。少しでも……恋愛という面じゃなくても、わらわという人間が、あの人に響くように、なりたいのじゃ」
カウンターの向こうで、バーテンダーがカクテルを振っていた。
その音が、ハンコックの気持ちをゆっくりと落ち着かせる。
「――お前の好きにしたらいい」
ミホークのグラスがカウンターに置かれた。
「例えあいつに届かなかったとしても、その想いを知ってる人間はちゃんといる」
「はは……お前か?」
「そうだ。それに、ブルーノもいるだろう」
バーテンダーがこちらを見た。
無表情だが、彼の目も暖かい。
「ふふっ……ありがとう」
ハンコックのピアスが、酒場の明かりで揺れた。
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