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【ポケモン】しじまの向こう

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求めた伝説は、力ばかりが飛び抜けた彼の従者でしかなかった。
 今は傍で生き物の一番落ち着く体勢で休んでいる。無彩色だけで構成された身体はどっしりと重く、何よりも力強かった。若草色の髪をした少年は、その肩をそっと撫でる。血の巡る身体は温かかった。―――この生き物に認められたのだと、少年は幾許かの安堵を得ている。ひととポケモンとを違える途方もない夢は、多少ぐらつきながらも、この生き物を呼ぶほど確かなものだった。彼の前に頭を垂れた生き物の姿を見たとき、複雑に絡み合った感情が少年の全身を突き抜けた。
 感じることができたのは安堵。恐れ。
 それから―――なんだっただろうか。
 若草色の少年は首を振る。心配そうに主の様子を伺う生き物に向け、微かに笑みのかたちをつくる。生き物は、年若い主に向かい、やわらかく鳴いた。そうすると少年にしか分からない声が届く。独特の、心の奥を擦る声。頭の中に響くのはゆったりとした落ち着きのある声だった。この生き物も、少年が親しんできたトモダチとは全く異なった話し方をする。彼のトモダチは、始終落ち着きのない甲高い声で話すことが多かった。尖った声は、爪が身体を引っ掻くように彼のこころも引っ掻いたものだった。
 いたわる声は優しかった。が、少年の望むものと違っているのも確かだった。その生き物は支えようとするものであって、導くものではなかった。
 あの少年は―――。
 若草色の少年は考える。
 ―――どうするのだろうか。
 意志の強そうな目をしていた、本当に、諍いの渦中に巻き込まれただけの―――自分が巻き込んだ少年は。日常に隠れている、何気ない幸せを彼のともだちと見つけて、それが楽しくて仕方ないといった風に笑っていた彼は。
 終始柔和な印象のある少年だったが、同時に彼は驚くほど苛烈な面も持ち合わせてもいた。眩しいほどに、生きていた。少年だけではない。自分以外は、生きていた。それぞれのともだちと、それぞれの生き方をしていた。そこに自分と、自分のトモダチが身を寄せるくらがりはなかった。それを思い始めると少年は堪らなくなった。
 かしずく生き物の腕に顔を擦り寄せる。冷えた身体にその温かさが心地良かった。
 いずれ少年は来る。持ちうるその苛烈さで、もうぼろぼろと端から崩れ始めているひとのかたまりを壊しにくる。若草色の少年が願ったもの、誓ったものを。
 ならば守らねばならない。
 そうでなくては立ちいかないのだから。
 目を閉じると、頭の中に響く穏やかな声がいっそう近く感じられた。縋りつくと、その生き物は意外と慣れた動作で若草色の少年を優しくくるみ込んだ。遠い昔にもこうしたのかもしれない。その温かさに包まれて、ちいさく息を漏らす。

 酷く億劫な気持ちになった。