追想恋慕
臨也さんが、いってしまう
今度こそ遠くに
この世界で生きている僕では、いけないところに
「いざ、や…さん」
もう、もう
「……っ…臨也さん…!」
もう、貴方にずっと逢えないなんて
そんなの
「臨也、さん…!いかないで…っ」
足が思うように動かない
その間にもいってしまう、遠くに、手の届かないところにいってしまう
苦しい、くるしい
でもこんな苦しみ、貴方がいない日々を送るよりずっと軽い
「今度は、今度は僕も一緒にいくから…!」
一緒に、逝くから
だから
「いっしょ、に……っ」
臨也さんが僕の目の前で、ゆっくりと足を止めた
酷く悲しそうに細められた視線とかち合う
あと少し、あと少しの距離なのに、あと少し頑張れば手の届く距離なのに
何故かこれ以上足はぴくりとも動かなかった
だからせめて、この想いを伝えたくて
僕は、口を開けた
「……臨也、さん」
「臨也さんは、どんな時も一緒にいてくれました」
「たくさんのものを、くれました」
(出会って、苦しんで、悲しんで、傷ついて)
(それでも僕は、僕は、貴方に恋をした)
(貴方が、本当の“あい”をくれたから)
(稚拙で愚かで、どうしようもないこんな僕を、大切に想ってくれたから)
「貴方が一緒だったから、僕は……っ」
だから、ぼくをおいていかないで
いっしょに、いっしょにつれていって
最後はもう、涙で声にはならなかった
頭がぐちゃぐちゃで、もうなにを言えばいいのか分からなくて
(臨也さん)(いざや、さん)
ただ只管に貴方を求めていた、時
僕の身体は僕より大きなそれに、優しく、だけど強く包み込まれた
それが臨也さんだと気付いた時には、僕のぼろぼろの心は限界だった
堰を切った様に溢れ出した感情は涙となり、頬を伝っては落ちていく
僕は、泣きながら臨也さんの胸に顔を埋めて謝り続けた
「…っめ、な…さ……ごめ、んな…さい…っ」
ひとりでいかせてごめんなさい
ひとりでいきのこってごめんなさい
こんなぼくが、あなたをあいしてごめんなさい
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
「ほんと…は、僕も・・・いっしょ、に…」
いっしょに――続けようとした言葉は
「――ありがとう」
数年ぶりに聞いた臨也さんの声に掻き消された
顔を上げれば、今にも泣きそうな顔をした臨也さんがそこにいた
それでまた悲しさが募って、僕の涙は更に溢れていく
「帝人君の想いはわかってる……ちゃんと、わかってるよ」
「いざや、さん…」
「だけど…俺はもういかなくちゃいけない」
「っなら僕も…一緒に、」
臨也さんの服を握り締め、叫ぶ
でも臨也さんは静かに頭を横に振った
服を握り締める手が、震える
「…帝人君が死んでしまったら、俺は本当に消えてしまう」
「でもね、帝人君が生きている限り……俺の欠片も生き続けるんだよ」
服を握り締める僕の指を解くと、臨也さんの身体はゆっくりと離れていく
僕の身体はもう動かなかった、声も出なかった
臨也さんの声だけが、鼓膜を震わせ、頭に浸透していく
「だから」
――涙が一粒、零れた
「君は、生きて欲しい」
(さいごにみたいざやさんは、すごくおだやかでやさしくて、あたたかいえがおをうかべていた)
***
――目が覚めた
小鳥の囀りが聞こえる
重くだるい身体を起こして、辺りをゆっくりと見回した
「……さ、ん」
声が、蘇る
『きみは、いきてほしい』
「……や、さん……臨也、さん…っ」
ぼろぼろとまた涙が零れた
どんなに泣いても、求めても、もうあの人には触れられない
それでも、
ほら、優しい雨は 止んだ
(ありがとう、だいすきでした)