学パロギルエリで5つのお題
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ほら、早く俺を裏切り者と蔑んでよ。
ギルベルトは小さな身体を抱きしめて心の中で呟く。
「ずっとライバルで友達同士な!」
なんていう、幼なじみとの男同士の約束が重たくなってきた中学三年。
昔自分を男の子だと思っていた幼なじみが、遠くへ引っ越して別の学校に行くのだと聞いて、そんな残酷な言葉をおずおず言い出した彼女を思いっきり抱きしめた。
制服が容赦なく男女別々になったのをきっかけに、エリザベータは女の子であることをゆっくり受け入れ始めていたけれど、自分たちの間に「友達でいよう」という約束があることはお互いに絶対に破ってはいなかった。
漫画やゲームやCDを貸し借りしたり、お互いの部屋を行き来したりしていても、彼氏彼女を作ってるやつらみたいにドキドキしたりさせたりは、してないはずだった。
約束を破らないでいられるのはきっと、エリザベータが手の届く場所で誰のものでもない間だけだろうとギルベルトは結構前からうすうす思っていて、それは身体と心が成長するに従って、確信になっていた。
誰かのものになったら絶対嫉妬するし、遠くへ行ってしまったら追いかけたくなるだろうという気持ちはただの執着だと思うことにしていたけれど、目の前で言いづらそうに視線を泳がせて、言葉を選ぶエリザベータに、ギルベルトは期待した。
甘くてふわふわしてて、自分たちが常々馬鹿にしてた連中が大好きなような、くだらない言葉が欲しかった。
そう気付いたら、我慢して来たことの全てがもう何もかもどうでもよくなって、その上、どうでもいいやと解放された気分になったことで、「我慢していたんだ」と気づいてしまって、抱きしめるしかなくなってしまった。
それがさっき。
抱きしめてしまったことで友達の誓いは破ったも同然で、もう後は何を言われても友達じゃなくって恋人になりたいんだと伝え続けるしかないんだと思っているけれど、いきなり殴られて終了になる可能性も決して低くはない。
腕の中の小さい身体はあったかくていつもの花の匂いがして、けれどいつもの勢い良く帰って来るはずの言葉はなくて。
どうして何も言わないんだろう、とちょっと不安になって、少しだけ身体を離す。
「エリザ」
うつむいたエリザベータの表情はうかがいにくかった。
「ギル」
エリザベータの体温がまた近づく。
両手を回してぎゅっと抱きしめ返された。
「卒業までずっと一緒にいて」
「うん」
「そのあとも、できるだけ」
「…おう」
休暇に入ったらどこへ行こうか、なんて話を少しだけして、手をつないで帰った。
登下校時に一緒に歩く時に手をつなぐかどうかに端を発したケンカを含め、ギルベルトとエリザベータは卒業式までに三回くらい、ホントにだめかもというレベルのケンカをした。
そのたびにいなくなられたら困ると焦ってお互いに必死に謝って、休暇の頃には手をつなぐのも恥ずかしくないくらいの立派なバカップルになって、そして、駅のホームで笑顔で手を振って別れた。
毎日顔が見られないなんて10年ぶりくらいの奇跡だ、きっとせいせいするぜーと笑ってやって、怒ったエリザにボコボコに殴られて、冗談でもやだと泣かれたので満足して、中学生的な精一杯でぎゅうぎゅうに抱きしめ合ってから手を振ったわけだけど、男らしく締めたぜと満足してたのはほんの15分。
どこからどうやって手配したものか、電車を見送ってからホームでぐしゃぐしゃに泣いてるギルベルトの写真を添付したメールが一通、ギルベルトの携帯に届いた。
『次の休みに会うまで泣かないで待っててね』
語尾のハートには愛情と友情とおちょくりとプライドを打ち砕く何かが詰まっていた。
***fin***
作品名:学パロギルエリで5つのお題 作家名:佐野田鳴海