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捏造既婚ギルエリで5つのお題

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[Never Die]

というメッセージカードを枕元に確認して、ハンガリーはため息をついた。
このところ彼女が気に病んでいた原因からの、気に病んでいた事態についてのメッセージであることは、そのカードの左利き特有の癖からも伺えた。

真っ白な枕に頭を預けなおして、カードを白い天井にかざす。

静かな時間に、古き良き時代から変わらない真っ白な病室の真っ白なベッドに、今自分が横たわっていることの不思議さを痛感する。

同時に、こうして落ち着くまでの騒動を思い返してハンガリーは小さく笑った。

帰宅した夫が見たのは、バスルームでスーツのままうずくまる自分と、便器いっぱいの赤い水たまりだったそうだ。
咳き込んだだけのつもりが、喉から次々と血の塊がこみ上げてきて白いブラウスもベージュのスカートも汚れた。あのどす黒い赤が自分でも目に焼きついている。
しばらく前から身体に違和感を覚えていた自分は、ああ、やはり病気だったのかと思ったけれど、プロイセンは、夫になりたてのあの人はどれだけ驚いただろうか。

人間みたいに結婚してみたい、なんてワガママを言ってみたはいいけれど、国としての存在意義の危うい彼が、ハンガリーというれっきとした国家と結婚の形をとることが何かの引き金になるかもしれない。

シュレディンガーの猫でもこうはいかない。
引き金になるかもしれない。ならないかもしれない。いつかなるかもしれない。
可能性と可能性の板ばさみに気づいたのはワガママを言ってしまった後だった。
根拠も予測も何の希望にもならない中で、ハンガリーは長らく自分がそうしてきたように、今この瞬間に共にありたいという理由で結婚の強行を望み、プロイセンはそれに誠実に答えた。

結果、初めての胃潰瘍で入院を申し付けられてこの様である。

結婚以来、こんなに自分ひとりで何もしていない時間を持ったことはなかった。
ハンガリーは静かに静かに自分の心を探って、丁寧に一つずつ形にしていく。
できるだけ長く添い遂げようと心がけていても、必ずどちらかが先にいなくなる。
そのときのことから目を逸らしてはいけないと、可能性と向き合ってそれまでにどうしようかを考える、途方もなく無駄で終わる目処のない作業だった。

こつこつ、と中指の骨でノックする音がして顔を向ける。
「ハンガリー」
少し緊張した声に呼ばれて、微笑み返した。
「起きてる。入って」
「顔色はよくなったな」
国としてのハンガリーの仕事を丸投げされたプロイセンは、少しくたびれた顔で笑った。
「あんたのほうが心配。ちゃんと栄養とってる?」
「ヴェストと坊ちゃんにしこたま差し入れられて食いきれねーよ」
軽口を叩きながらネクタイを緩めて、ベッドサイドの丸椅子に腰掛けるとプロイセンはハンガリーの顔を覗き込んだ。
「お前こそ、栄養はとってんのか」
「まだ、薬と点滴がメインだけど、お医者様がちゃんと診てくれてる」
「そっか、ならいいんだ」
プロイセンはちらっと天井に視線を向けてから、一呼吸置いて笑った。
その微妙な間合いにハンガリーが瞬くと、プロイセンが視線を合わせてくる。

「俺は死なないから、くだらねえことで悩んでないで、自分の身体を労われよ」

ハンガリーの額に唇を押し付けて、素早く囁く。

「柄にもねえ悩み事してると、腹の子に触るってさ」

「!!」

***fin***