強さとやさしさと。
強い国じゃなくてやさしいひとに。
あいつはきっとそんなこと望んでなんかないんだろうけど。
でも、おっきな樹みたいに腕を広げて全部を守ろうとするのがあいつで、だからこそ俺の代わりにあいつは傷つく。
それがあいつのやさしさで、あいつの考える強さなんだと思うんだ。
でもね、だからこそ俺はやさしくなりたい。
大樹に守られながらその枝の上で唄を響かせる鳥みたいになりたい。
ありがとう、だいすきだよってうたいながら、大樹が結んだ種を遠くまで運ぶ鳥になりたい。
ねえ、日本。ドイツはいいやつだよ。
そりゃ怖いとこもあるけど、俺のことぼろぼろになりながら守ってくれる。
日本のことだってきっと助けてくれる。
あいつは裏切らないよ。
日本はきっともっとドイツと仲良くなれると思うんだ。
だって、日本とドイツ、よく似てるんだもん。
(それは…イタリア君だから、じゃないですかね)
国同士が結ぶ同盟です。そこに利害の一致こそあれ信頼関係や友情めいた気持ちなんて必要ないと思っていた私には、いささか億劫なお話でした。
だからいつものように曖昧に笑ってごまかしたのです。
イタリア君は少し、悲しそうな顔をしましたっけ。
ドイツさんが大樹。イタリア君は鳥。では私はなにになるのか。なにになりたいのか。
(私は…)
「私は刀になりたかったのです」
「刀?」
「ええ、刀に」
刀に。
ひとつの無駄も曇りもなく研ぎ澄まされた、しなやかで迷いのない刀に。
背負ったもの全てを守る、強い、強い、刀に。
「どうしてそんなものになりたいんだい? 刀じゃ、銃には勝てないんだぞ」
「…まったくですね」
ぼたり、ぼたり。
こげるような熱気。地面にあかいはな。
それはまるで椿のよう。
命を終わらせ、地面に還っていくのでしょう。
目の前の男は涼しげな顔。
私の身体に灼熱の太陽を撃ち込んだ男は、重そうな銃を構えたまま微動だにしない。
痛い。熱い。苦しい。太陽が臓腑を焼き尽くしていく。
憎い。憎い。憎い。そして、ああ、悔しい。
私はまたこの男の前に膝をつくのです。
「それにしても…太陽が昇る国に太陽を落とすだなんて、あなたも粋なことをしますねぇ」
それでも皮肉の一つも言ってやらなければ気が済まず、私は精一杯笑いながら、強がりながら、吐き捨てるように。
男は蒼い瞳を丸くして大げさに肩をすくめて。
「君は何を言ってるんだい? 俺の国から見たら君の国も、中国だって、みんな陽の沈む国だよ」
海を挟んで私の東側。
太陽の昇る方。
彼の国はそこにある。
「…ああ、まったくですね」
刀になりたかった。
ひとつの無駄も曇りもなく研ぎ澄まされた、しなやかで迷いのない刀に。
背負ったもの全てを守る、強い、強い、刀に。
周りの強さに負けないように、もっともっと強くなろうと必死で刀を研いで、鋭い切れ味と引き換えにいつしか刃は薄く脆くなった。
だって、日本とドイツ、よく似てるんだもん。
いつかそう言った彼は羽を毟られ、彼を守ろうとした人も枝を焼かれた。
私の刀も折れて砕けた。
羽はいつか生えるだろう。枝はまた緑を芽吹かせるだろう。
では私は?
折れた刀はもう元には戻らない。
似てなどいない。似てなどいないのですよ、イタリア君。
「参りましたよ。まったく、あなたはいつの時代も忌々しいですね」
アメリカさんはつまらなそうに鼻を鳴らしました。
ドイツさんが大樹。イタリア君は鳥。では私はなにになるのか。なにになりたいのか。
折れてしまった刀を抱えた私は、強く在りたいのか、やさしくなりたいのか、それすらもわからないのです。