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ふうりっち
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novelistID. 16162
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盟約を護りし騎士へ… (以下、略)

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■タイトル
『盟約を護りし騎士へ、水なる宴をもちいて褒美を授ける』




「全く、節度が無いのは困り者です」

 今にもお湯が沸騰しそうな勢いで言葉を荒げるオーストリアは、風呂上りの余韻を払拭するようにバスローブを羽織ると洗面台の前に立った。

「いくら久々とはいえ……節度が無さ過ぎます!」

 濡れた髪を整えながら、収まりきらない怒りを鎮めようと何度か深呼吸を繰り返すが全く効果がない。気持ちを静めようとすればするほど、怒りの原因とも言える記憶が甦ってくるので、心が落ち着かない。
 いつもは冷静を重んじるオーストリアが、このように憤慨するには訳がある。
 逃げるように風呂へ駆け込んできたが、先ほどまで参加していた宴。
 それは長旅から無事に帰ってきたプロイセンを祝うため、仕事を早々に切り上げてきたドイツとオーストリア、そして、主賓であるプロイセンの三人でテーブルを囲んだまではよかった。
 昔から酒好きである面々が一度飲み始めれば、それは際限なく続く。特に、久方ぶりに帰宅したプロイセンの無事を祝してと銘打てば、酒は美味しく進んでしまう。夕食を兼ねた宴が開始から三時間が経過した頃、風呂に入るため席を立つオーストリアに絡みついてきたのは、機嫌よく頬を上気させたドイツであった。
 兄の帰還に気をよくしたのか、珍しく醜態を晒す彼に手を焼くも、どうにかその場から逃げることはできたが、その間、プロイセンは高笑いでそれを見るだけで助ける気配はまるでない。
 意地の悪い性格は相変わらずのようだ。
 イタリアには兄のような新密さで接するのに、オーストリアが相手になると、その態度は素っ気無いというか意地が悪い。

「結局、いつまでたっても子供なんです!」

 そう解釈することで、苛立つ気持ちを押さえ込もうとした。
 考えてみれば、冷静沈着なドイツに比べ、少々乱暴な癖があり、狡猾な手段を用いた略には長けていても、短慮という欠点は昔から変わらない。
 自分のことを棚にあげるわけではないが、成長するに従い性格は丸くなったと思うのに、プロイセンは未だ子供のような振る舞いで接してくる。
 時に茶化しだったり、時に高圧的だったり。
 何故、自分にだけそんな態度をとり続けるのか分からず、分からないから余計に苛立ってしまう。オーストリアは鎮まらない怒りに乱暴な手付きで濡れた髪を拭っていると、洗面台の棚に置かれた見覚えのある装飾品に気が付いた。
 やや長めの皮ひもに通した『鉄の十字架』と呼ばれるペンダントップ。それはあの兄弟のどちらかの所有物であろう。

「全く大事なものを、こんなところに……」

 首にタオルを引っ掛けると、そっと表面に触れてみる。思いのほか厚みのあるアイアンクロスは、指で触れるだけでも適度な重厚感を感じられた。そして、初めて触れるそれを愛おしそうに見つめていると、いつも見慣れた光景が脳裡を過ぎった。
 休日、自宅で寛ぐ時も揃いの品を首から下げている姿は、兄弟以上の深い絆で繋がっていることを思い知らされる。その中にまざりたいわけではないが、アイアンクロスを持たない自分の存在は、この家のなかにおいて異物と思えて仕方がない。

「……今更、疎外感など」

 いつの間に情が深くなったのだろうか。
 知らず知らずのうちに、あの兄弟にのめり込んでいる事に気付いたオーストリアは、慌ててかぶりを振る。その直後、真横から射すような強い発光に目が眩んだ。

「ッ……!」

 咄嗟に強烈な閃光から双眸を守ろうと双眸を硬く閉じ、影響を回避したつもりだったが、閉じていても瞼の中で明滅が続いている。こんな状況では、敵に太刀打ちできない。何より一番無防備なときを狙われたせいで、交戦するための武器すらない。万事休す  と危ぶまれた瞬間、聞きなれた声にオーストリアは肩が小さく揺れた。

「湯上がり坊ちゃん、頂き!」

 陽気な声に交じって、独特の笑い声が室内に響く。
 この声を間違うはずがない。

「プロイセン、何をするんです!」

 いまだ目が開けられない状況であるが、声のするほうへ意識を傾け、声を張りあげた。

「そうポコポコ怒るなって。なんてったて、今日はオレ様の帰還祝いなんだからよ」

 唇を尖らせ不満げな口調であっても不意打ちが成功した事に満足しているのか、プロイセンは陽気である。

「ここは祝いの席なんかではありません。もっと常識を持ちなさい!」
「お、その口調…懐かしい~」

 ヒステリック気味に叱咤するオーストリアに怯むことなく、プロイセンは口端をあげ小馬鹿にする様に薄く笑っている。

「なんですって?」
「坊ちゃんの小言を聞くと、安心するって話だよ」
「貴方って人は……」