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舞い降りた地上は爽快な深いブルー

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私が降り立ったその星の色。



     舞い降りた地上は爽快な深いブルー



 窓の外が別世界みたいだと思った。テレビの画面や絵本を覗きこんでるみたいだ、と。けれど確かに別世界なのだと思い直した。あの人たちを星ごと見渡せる位置にまで来てしまった今、ここがあそこと同じ世界だなんて、到底言えない。
 闇ではない黒色。その中に浮かぶあの星は余りにも綺麗で余りにも青くて余りにも丸くて余りにも作り物じみていて、疎外感。万事屋も、新八の家の道場も、定春と歩いた散歩道も、みんなあの星のどこかに在るはずなのに、なのにどうして今このときには余所余所しい顔しか見せてくれないんだろう。
「薄情ネ」
 まあ、どう足掻いたって私はあの星にとっては余所者なのだということか。
 えいっ、と、少しの気合いとともに両目を今居る世界へ。船内の白っぽい明るさがひどく場違いで、こっちでまで疎外感を感じる私はいったいなんなんだ。

 私の故郷へ向かう宇宙船は少しずつ少しずつ地球から遠ざかる。

 声を潜めてやり取りされる会話のひとつひとつが集まって穏やかな喧騒になる。右を向けば空席と空席と通路の向こうに人間の親子が見える。綺麗な着物の女の子がにこにこ笑ってお母さんに何か耳打ちする。温かい光景はちくりと胸を刺した。
 ああ、今になって思えば私はあの時ああいうものを求めていたのだろう。あの時に、地球でそれが得られると思ってたはずはないけれど。今の私が手に入れたものがイコール最初に求めていたもの、なのかどうかなんてわからない。どうだっていい。どうだっていけど私は別に手放そうとしているわけじゃないんだから。そう自分に確認した。
 再び窓へ眼を向ける。前にこの景色を見たときのことを思い出すとまた少し寂しくなった。あの時は銀ちゃんと新八が隣に居た。ひんやりとした窓におでこがぶつかるくらい顔を近づけて、私は地球を見詰めていた。もうビーダマと同じくらいの大きさだ。
 ……焦る必要なんかないのに。
 どれだけ距離が離れたって、気持ちも思い出も逃げていったりはしない。それだけの絆は築いてきたつもりだ。だから大丈夫。焦りも寂しさも必要ない。大丈夫。
「だいじょうぶ」
 そっと口に出してみても、私は何も変わらなかった。重い。寂しくて苦しい。パピー。パピーは苦しくなかったのかな。兄ちゃんは寂しくないのかな。私は寂しかったよ。家族がばらばらなのは辛いことだったよ。そうだ。だから私は今、家族の元に向かっているんだ。
 地球ももうすっかり遠くなってしまってすることがなくなってしまって、思い出したことがある。それはびっくりするほど自然に私の口から滑り出てきた。
「おきた、そうご」
 言ってから笑ってしまった。だってきっと誰にも予想できなかった展開だ。私があいつの名前を正しく記憶していて、それをしっかり発音するなんて。しかもこの状況で。
 真っ黒な服装と、薄い色の髪と、刀の鋭い光と、生意気な笑い方と。
 あいつは私の何だったんだろう。敵? ライバル? 好敵手? トモダチ? 浮かんだ単語の全てを悉く笑い飛ばされそうな気がする。それじゃあ逆はどうなんだろう。私はあいつの何だったんだろう。訊いておけばよかったのに。思考がひどく素直なのは、自分の置かれた状況の所為にしたい。
 次に会うときに聞いてみようか? 次いつ会えるのか、わからないけれど。
 お前のことなんか忘れたと、嘯く姿が思い浮かぶ。どちらさん? と首を傾げるふてぶてしいあいつの姿が。
 私は笑う。本当にそう言われることになるとしても、怒ることも悲しむこともせず、笑ってみせようと思う。
 笑って会いたいと思った。
 沖田総悟。少なくとも私はお前を忘れない。
 冷たい船の中で温かい気持ちを抱いて、やっと思い至る。私はあいつのことが嫌いではなかったみたい。
 もう姿が見えないあの青い星へ向けて飛ばす思い。
「再見」
 それは祈りじゃなくて、誓い。