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ナクアラアンソロ『スブ・ロサ』SS

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カルミナ・マキーナ
                        

「君は、僕の太陽だ」
 土砂降りの雨の中。ナックルが今この時最も会いたくない相手、アラウディがナックルを一目見るなりそう告げると、行く手を阻むように目前に立ちはだかる。
 濡れても色の変わらない白金の髪が彼の小さな姿の良い頭の形を露わにし、髪から滴り落ちる雨の滴が少女のように柔らかな線を描く頬を伝って落ちる。押し殺そうとしても溢れ出す激情の為、アラウディの白く整った顔は内側から光を放つように輝いていた。事あるごとにアラウディ本人に無骨者呼ばわりされているナックルではあったが、その全てを今や密かな感嘆の念を込め見つめていた。
 アラウディには、今日が旅立ちの日であることを伝えてはいない。
 嵐の守護者は、始終険しい顔をしながらも結局は何も聞かず秘密裏にナックルの為に新天地への手配をつけてくれていた。今夜の旅立ちは、ナックルと嵐の守護者以外誰も知らない筈だった。
 アラウディは、どこから聞きつけたのか。あの慎重な嵐の守護者を出し抜くなど、恐らく情報源はプリーモあたりだろうか。
 聞いていないと詰め寄るアラウディを予想していたナックルをよそに、彼が最初に口にしたのは詰る言葉でも哀願の言葉でもなく、予想外にも男が愛する女を口説くときに使う常套句だった。
「君は、僕を照らす太陽だ」
 アラウディの普段は皮肉しか口にしない生意気な唇が、彼とは到底思えない口説き言葉を再び紡いだ。
「たった一つの太陽だ」
 激しい雨音が、アラウディの声に紗をかける。
 アラウディのその声は、低く抑えられ密やかでさえあったが、込められた一途な想いは恐るべき威力を持ってナックルに伝わった。ただただ胸の内を訴える彼の哀れさに、普段は決して見せることのないだろう彼の剥き出しの姿に。今後、俗世のどのような歓びからも遠く去ろうと入信を決意していたナックルに、感じてはいけない眩暈のような歓喜の衝撃を湧き起こさす。