二年後設定銀桂短編集
銀時はぎょっとする。
そして、声のほうに眼をやった。
予想どおり、桂がいた。
長い黒髪は通常ではまっすぐなのだが、今はゆるやかな波のようになっている。
服装もいつものきものではなく、チャイナドレスだ。
そのうえ、端正な顔には化粧が施されている。
頭の中は堅いままだろうが、その外見は艶っぽく美しい。
かまっ娘倶楽部に出勤するまえなのだろう。
桂が駆けてくる。
あっというまに、近くまできた。
銀時は顔をひきつらせて言う。
「助太刀なんざいらねェぞ、ヅラ」
「ヅラじゃない、ヅラ子だ」
訂正し、桂は男たちのほうに向かっていく。
桂も、強い。
今はこんな姿ではあるが、攘夷党の党首であり、攘夷戦争の英雄と言われた存在なのだ。
その鋭くて力強い蹴りが敵を倒した。
ほう、という感嘆の声があがった。
ただし。
敵であるはずの男たちのあいだからも、だ。
彼らは桂の強さに感動したのではない。
その眼は、あきらかに、桂の脚に向けられている。
チャイナドレスの深いスリットからのぞく、綺麗な生足に、見とれている。
銀時は思いっきり顔を歪めた。
ムカついた。
その気持ちのままに行動する。
桂の脚に見とれている男たちを、片っ端から倒していく。
勢いあまって外野の男も倒してしまったが、そいつも桂の脚に見とれていたので、まあ、いいだろう。
それから、桂のほうに行く。
「あのなァ! そーゆーカッコしてるときは、おとなしくしてろって、行儀良くしてろって、まえに言っただろーが!」
銀時は桂の肩をガシッとつかんで、説教をした。
桂はむっとした表情になる。
「おまえに行儀良くしろなどと言われても、そのとおりにする気にはならんな。幼いころ、俺はおまえの行儀の悪さを何度も注意したが、一度も耳を貸そうとしなかったではないか」
かなり昔のことを持ち出してきた。
これだから、幼なじみはやっかいだ。
「俺は行儀悪くてもいいんだ。だが、テメーだとマズいんだよ」
「どういう理屈だそれは。というか、銀時、おまえ、うしろに気づいているか?」
「はァ? うしろォ?」
なんのことだかわからないまま、銀時は振り返ろうとした。
だが。
時すでに遅し。
猛将との呼び名の高い坂田将軍は忍び寄っていた敵に、背後から殴り倒されてしまった。
敗因は言うまでもない。
ただし、その敗因によって、敵はすべて倒されたのだった。
作品名:二年後設定銀桂短編集 作家名:hujio