まちがえた!
風丸一郎太は円堂の幼馴染で
「俺さ……お前の事好きなんだ」
陸上部と掛け持ちで俺たちの助っ人に来てくれていて
「フーン、で?」
超、顔が可愛い。
「でって……お前は?」
「俺も半田の事嫌いじゃないけど、それでどうしたいんだ?」
「嫌いじゃないってそういうんじゃないんだよ」
なんだか理解を伴わないようなテンポで続く会話に俺は戸惑う。予定ではもっと風丸は赤くなったりびっくりしたりして、
「じゃあ、どういうの」
こんな意地悪い顔なんかしないはずだった。予定?
「お前なんか間違えてるよ?」
じわじわ距離を詰めてきた風丸に押されるようにして、気付くと背中が壁についていた。学ランの襟に留められたバッチがきらめく。
「つきあったり、最初は一緒に出かけたりさ、そういう奴……間違えてな」
俺の言葉尻を塞ぐように風丸がグイッと近づいて来て、ちょっとしてから唇だと気付く。まだ丸みのある柔らかいあごは、風丸の中で三番目に可愛い。
「こういうの?」
「か、かぜまる」
「そーゆーんだったら募集してないから、今」
足りてる、と少し笑う風丸を俺はただ呆然と見ているしか出来ない。遠くから風丸を呼ぶ知らない声がする。
「俺、陸上部昼練あるんだ。後輩待ってるから、じゃーな」
昔の少女マンガみたいな手の振り方をして風丸はタッと軽やかに駆けていく。もー遅いですよ風丸さあん、と女子みたいな喋り方は多分さっき呼んでた後輩の声だ。
「はーマジかよ、ありかよそーゆーのさー」
空が青い。短く息を吐いてからそーゆーかんじかー、と小声で言って俺は手の甲で口を拭った。