二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

貴方が私の居場所なの

INDEX|1ページ/1ページ|

 


君に出会えたことが俺の生きる意味なんだ。




伸び放題の草木。
慎ましく咲く花々。
囀る鳥の唄と呼び合う獣の鳴き声。
澄んだ空気と透き通った水辺。
煌びやかではないが息を呑むほどの壮大な美しさが凝縮された場所に、彼はいる。

とん、とん、と太い木の枝を飛び移り、軽やかに着地する。
紅玉の眸を持ったアヤカシ狐の子供はぐるりと視線を回し、ある一点に目を止めると、甘やかな顔立ちを輝かせた。

「―――帝人くん!」

視線の向こうでふわりと浮きあがったのは、水辺にゆったりと横たわる美しい竜。
一度蒼い眸が子狐を映し、ふわりと伏せられた。
瞬間、竜の姿はひとりの少年に姿を変える。
額の出た短い前髪に、襟足の長い髪を項で白い布で結んだあどけない顔立ち。
しかし変わらない蒼い眸が聡明さと老成、そして慈愛に溢れ、少年というイメージを打ち消していた。


「臨也さん」


涼やかな声が静寂の中凛と響いた。
子狐の耳がピンと伸び、彼は嬉しそうに竜の前へと飛ぶように駆け寄る。
華奢な身体にぼすんと抱きつく。
少年は心得ているのか、少し揺らいだだけで子供を難なく受け止めた。
「今日はどちらまで行かれたんですか?」
「東の村までだよ」
「・・・随分遠くまで行ったんですね」
「俺の脚ならどうってことないよ。それに帝人くん言ってたじゃない。あっちの村の妖し騒ぎが気になるって」
「おや、わざわざその為に?」
「帝人くんの為なら山幾つでも越えてくよ」
褒めて褒めてと言わんばかりに、少年の腹辺りにある頭をぐりぐりと押し付けると、骨ばった手が漆黒の髪を撫ぜてくれた。
「ありがとうございます。それで、どうでしたか?」
「んー、確かに臭かった。でもさほど濃くは無かったから、まだ生まれたてか半分妖しになってるかその程度の輩だと思う」
「人に害はありそうでしたか」
「食糧がちょこちょこ盗られてるみたいだけど、人自体への危害は今のところ無いみたいだよ。あ、でも」
「でも?」
「どんなに厳重な鍵で蔵を閉めても、壊されるんだってさ。鈍器とかじゃなくて、こう手で無理矢理抉じ開けるみたいに」
「・・・・それはそれは、興味深いですねぇ」
蒼い眸が東の方角へと向けられた。
まるで何かを見通すかのような横顔を、臨也はじっと見上げる。




臨也は荒れ果てた戦場で目覚めた妖しだ。
折り重なる人間の屍と紅く濡れた大地が、臨也が生まれてすぐに見た世界だった。
それゆえか、臨也の眸は血で凝縮されたように紅い。
赤は凶兆の色ともされ、人間は元より同類でさえも臨也を異端視した。
逃れて逸れて、迷い込んだ山の中で臨也は美しい竜に出会ったのだ。

(紅く熟れた柘榴の実のよう)

蒼き眸の竜は、あどけない表情のまま慈しみ溢れる声音で囁いた。

(とても綺麗な眸ですね)

独りでも平気だと思って、思い込もうとして。
全てを閉じようとした矢先に、出会えた美しい妖し。
ようは一目惚れだった。
それ以来、臨也はずっとこの竜の傍らに居た。
ずっと。




「帝人くんは長生きのくせして、好奇心旺盛だよね」
「長く生きているからこそ、です」
「ふうん」
「童も千年生きればわかりますよ」
揶揄する口調に臨也は頬を膨らませる。
「童って呼ぶの止めてよ」
蒼い目がくるりと丸くなった。
「ああ、また呼んでましたか?」
「呼んでた」
「あらあら、ごめんなさい」
「俺に名前与えたのは帝人くんなんだからね。帝人くんが呼んでくれないと意味がないんだから」
少年の眸と同じ蒼い衣に包まれた腕に優しく抱き締められた。
臨也は不機嫌そうな顔のままだが、その腕を拒むことはしなかった。
それだけでどうでもよくなってしまうのは、子狐がこの竜のことを好きで好きでたまらないからだ。
「しょうがないから、許してあげるよ」
「ふふ、ありがとうございます」
ばさりばさりと振られる尾に帝人は微笑みながら、慕ってくる子狐を慈しむ。



臨也は死に塗れた世界で生まれた。
けれどそれは今ではもうどうでもいいことだ。
どんな生まれであろうとも。
血のように紅い眸を持っていようとも。
美しい竜に出会えた。
ただそれだけが臨也の宝物なのだ。





煌びやかではないが息を呑むほどの壮大な美しさが凝縮された場所にいる、蒼い眸の気高き竜。
その傍らには常に紅い眸の妖し狐がいた。





(今度、東に足を向けてみましょうか)
(なに?気になるの?)
(ええ)
(帝人くんが行くなら俺も行くけど、・・・・でも何か気に食わない)
(何がですか?)
(もし妖しが居たとしても、多分俺そいつとは仲良くできない気がする)
(はあ)
だって臭いから好かないんだもの!

作品名:貴方が私の居場所なの 作家名:いの