人か動物か
ノックもなしに入ってきた、最強の守護者であり大魔王でもある雲雀さんが珍しく入り口の付近で固まっていた。その目線の先にあるものが何かに気付いて、俺はふふんと満足げに笑った。
「俺の匣アニマルですよ。天空ライオンで、ナッツっていうんです」
隣にいたナッツを抱えて、頬擦りをする。ああ、可愛い。可愛すぎる。親馬鹿だと言われても気にしない。大切に大切に育ててきた我が子のような存在だ。最近は自慢したくって、誰かに会うたびに可愛いだろーと見せびらかしていた。けれど、どうやら雲雀さんにはまだ見せていなかったらしい。可愛いものハンターの彼の目がぎらりと光ったのは、多分気のせいではない。ふうん、と興味なそうにしているもののこの大魔王な先輩は、その外見や中身に反して可愛いもの好きなのだ。
俺が書類に取り掛かるのを再開したときも、珍しく雲雀さんはまだ部屋にいた。いつもは用が済めばさっさと出て行くのだが(それはそれでありがたいのだが)、今日はやはりナッツに興味があるのか、ナッツの気を引こうとしている。しかし、ナッツは俺の性格をまんま受け継いでいる。果たして、雲雀さんに懐くのだろうかと見守っていると、案の定ナッツは雲雀さんに警戒して、というよりも怯えていた。当初の俺のように。
「・・・・・・なんで君といい、この子といい、そんなに怯えるの?」
それは本人もしっかり感じていたらしい。低い呟きは、申し訳ないけれど黙殺させてもらった。雲雀さんは、頑なに怯えるナッツに痺れを切らしてがしっとナッツを捕まえると、わさわさした。それはもう、盛大に。可哀想に、ナッツはがるる・・・と切なそうに鳴いて俺に助けを求めるが、可愛いものを目の前にした雲雀さんを俺ごときが何とかできるはずがない。
思う存分、もふもふして満足した雲雀さんが、俺に何か言おうとする。ああ、言わないでくれと心の中で祈るが、そんなちっぽけな祈りが届くはずがない。
「ねえ、これ頂戴」
「駄目、です・・・!」
やっぱり。やっぱりそうなると思ったのだ。俺にしては珍しく、雲雀さん相手に即効で断った。語尾は弱かったが。雲雀さんは一気に不機嫌になる。そして、またその苛立ちをどうにかするべくナッツをもふもふした。哀れ、ナッツ。
「ナッツは大空の匣アニマルなんですから、大空の炎でしか開けることができないんですよ。もらったとしても開けられなかったら、意味ないですよ」
そう言うと、正論だったからか雲雀さんは諦めたようだった。ものすごく未練がましかったが。ただ、そんなに俺の匣アニマルを気に入ってくれたことが嬉しくて、俺は思わず言ってしまった。
「で、でも、大概俺、ナッツ出してると思うんで、会いに来るんだったらいいですよ?」
そう提案すると、雲雀さんの鋭い目がきらんと光り、あ、失敗したと俺は即座に後悔した。
それからというもの、雲雀さんは俺が言ったとおり、ほとんど毎日やってきた。二、三ヶ月一回会えたらすごい人が、ほとんど毎日やってくるのだ。そうか、この人を釣れるのはリボーンの他にも、可愛い匣兵器があったのか。そんな新発見にも、しかし俺は不満たらたらだった。ちょうど書類を出しにきた山本に、愚痴ってみた。
「あの人もおかしいよね。なんで俺じゃなくて、ナッツに会いに来るんだよ!部屋に入ってきても、ナッツばっか構ってるんだよ!!」
「・・・・・・なあ、ツナ」
「それにナッツもナッツだよ!最初はあんなに雲雀さんのこと、恐がってたくせに、今はすっかり懐いちゃってさ!!山本もそう思わない!?」
「あのさ、ツナ」
「ん、なあに?」
一通り、鬱憤を晴らした俺にいつも爽やかな親友が、少し困った顔で俺に爆弾を投げた。
「結局、ツナはどっちに妬いてるのな?」
もちろんそんなの、と言いかけてフリーズした。先程の愚痴を思い出す。途端に、顔が赤くなるのを感じて両手で隠す。ツナ、可愛いのなーと言って出て行った山本の代わりに、入ってきた人物を見て、俺は茹でダコになって心臓が止まるんじゃないかと思った。