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Strawberry On the Shortcake

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あなたはショートケーキの苺、先に食べますか? 後で食べますか?



「あれー? さとーさんも休憩?」
「おう種島。悪かったな俺も休憩で」
「そんな風に言うからさとーさんはいぢめっこなんだよ」
「背が高いから狭くなってしまってすまんな。でもお前は小さいからバランスが取れてちょうどいいだろ?」
「んもー!」

 ある休日のお昼過ぎ。
 珍しく忙しくて、お昼御飯を食べていなかった私は、遅い休憩に入ろうとしていたところを休憩時間が被った佐藤さんと出くわした。

 いつも通りと言えばいつも通りのやり取りをすると、私はお昼御飯をどうしようかと考える。
 普段なら家から持ってきたり賄いを作ってもらったりするけど、佐藤さんは休憩中だし、他の人に頼むのもあの忙しさの後では気が引ける。

「お昼、どうしよっかな」
「用意してないのか? 何か作ってやろうか?」
「ううん、いいよ。さとーさんも休憩中だし。お菓子か何か食べるよ」

 こういう時や友達と食べたりする時の為に、鞄の中にはちょっとしたお菓子が入っていたりする。
 今日は夕方までのシフトだし少しぐらい我慢しようかな。

「俺を労わるとは良い心掛けだな種島。そんなお前に御褒美をやろう」
「なになに?」
「ほら、これだ。開けてみろ」
「もしかして……うわぁー!」

 鞄を取りに更衣室のロッカーに行こうとすると佐藤さんは、まるで初めからそうしようとしていた、と言わんばかりにその理由を棒読みし、紙袋から手提げの付いた白い箱を取り出して開けるよう促してきた。
 その箱が何を容れる為の箱なのか認識した瞬間、心が躍らんばかりの気持ちで私は中身を確認しようと開けていた。

「苺のショートケーキだ! これどうしたの!?」
「あ? あぁー……えっとな、ここに来る前に実家に用があって寄った時に貰った」
「ふーん、そうなんだ。ねえ食べていいの?」
「いいから、さっさと皿とフォークを持ってこい」
「はーい」

 佐藤さんの嬉しいサプライズに思わず顔が綻んでしまって、上手く喜びが隠せなくて。
 だって、そうでしょ?
 好きな人からのプレゼントはどんな物でも形でも、例えそれが八千代さんとは違う感情だとしても、嬉しいから。 


 その反面、佐藤さんの優しい咄嗟の嘘にどこか冷めた気持ちの自分がいて、上手く哀しみが隠せなくて。
 だって、そうでしょ?
 好きな人からの嘘はどんな物でも形でも、例えそれが私への気遣いだとしても、寂しいから。





「いただきまーす!」
「どうぞ」
「はい! う~ん……美味しい!」
「そりゃ良かったな」
「うん! そう言えばさとーさんは食べないの?」
「自分の分の食器しか持ってこなかった奴が今更言うセリフかよ」
「う、しようがないじゃん。さとーさん何も言わないし、言ってくれたら今からでも持ってくるよ?」
「いや、俺はもう食べたからいいんだ」

 皿とフォークを持ってきて箱から移して。
 卵黄色のスポンジに真っ白なクリームにそれに映える目を惹く赤い苺。
 そのケーキ部分を一口。
 感想は空腹と相まってただ一言の感嘆。


「さとーさんはさ、ショートケーキの苺、先派? 後派?」
「後、かな」
「私も! 好きな物って最後まで取って置きたくなるんだよね」
「それで俺に食べられると」
「ダメだよ! さとーさんでもこれはあげない!」

 ショートケーキを食べる時によく話題になる、苺の食べる順番。
 先に食べる人は好きな物は先に食べて、後で食べる人は好きな物を後に取っておくタイプっていうアレ。

 佐藤さんはどうやら私と一緒で後派みたい。
 こんな細かくてどうでもいい事でも、今の私にはとても大切にしたい事だ。

「盗らねえよ。あんまり好きじゃねえから、どっちも。食べられる事は食べられるが他に誰かいたらあげるな」
「こんなに美味しいのに? 八千代さんにあげたりするの?」
「……そうだな。八千代は先派らしいから」

 訊いてちょっと後悔して、聞いた後で追い討ちでもっと後悔。
 佐藤さんと八千代さんは付き合っている事を隠しているわけじゃない。
 八千代さんはバイト中でも佐藤さんを名前で呼んだりするし、佐藤さんと話をしている時は心の底から楽しそうな笑顔をするし、惚気話をしている時は幸せに溢れていると思う。

 佐藤さんの方はというと。
 なるべく公私混同をしないように気を遣っていて、特に私と一緒にいる時は八千代さんの話題を出さないような気がする。
 ほら、今だって佐藤さんは全然悪くないのに、顔はばつが悪そう。

 何故だろう? 
 佐藤さんが私に気を遣う必要なんて何もないのに。
 八千代さんも好きだから、悩みなんか話してくれて、それでアドバイスなんかしちゃったりして。
 それが、良いのに。
 それで、良いのに。
 

 だから私は。


「へえーじゃあ二人は相性が良いんだね」
「そうなのか……?」
「そうだよ。もう、ダメだなぁさとーさんは」
「ダメな俺の方が背は高いけどな」
「だから背は関係ないでしょ!」

 
 だから私はこれで良いんだと思う。


 佐藤さんは後で苺を食べて。
 私も後で苺を食べて。
 八千代さんは先に苺を食べて。

 相性が良い二人には必然の結果で。
 好きな人との心地良い関係が壊れるのが怖くて後回しにした私には当然の結果で。

 私はまるで。
 このもろくて崩れやすいショートケーキのよう。
 一人で最後まで残った苺のよう。


「種島」
「なーに?」
「今度は俺が選んだのを買ってきてやるよ」
「……うん! でも出来ればさとーさんの手作りが良いなぁ」
「作れん事はないが……そう言えば知り合いに、ケーキを買いに行くのが恥ずかしいから自分で作ったバカがいたな」
「すごいね!?」

 
 けれど、ねえ佐藤さん。
 どれだけ平気なふりをしててもやっぱり助けてほしいよ。
 この永遠の片想いから助けてよ!
作品名:Strawberry On the Shortcake 作家名:ひさと翼