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accarezzare

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怖い。傷付けてしまう事が、傷付く事が、怖い。身体は刺しても轢いても跳ねても撃っても大した怪我はしないのに、心は駄目だ。心だけは何をやっても強くなってくれない。一人だ。こんな広い広い都会のド真ん中で、俺だけが一人。行き交う人々は俺の姿を認識するなり急いで距離を取る。周りから向けられる視線は何時でも畏怖の念が込められていて、いたたまれない。俺が一体お前らに何をしたってんだ。そりゃあ投げ飛ばしたり巻き込んだりした人間にビビられる分にはまだ理由は分かるが、お前らに俺は何もしてねぇじゃねぇか。――…一体俺が、何をした。

「静雄さん!」

突然背後から呼ばれた自分の名に驚いて振り向く。

「珍しいですね、今日はお一人ですか?」

竜ヶ峰帝人、確か八つ年下で、高校の後輩。高校生らしからぬ幼い顔立ちと高めの声が特徴的で、何故か俺を怖がらないおかしな少年。人懐っこくて可愛い奴だと、思う。そして俺は、この少年に、恋を、している。

「え、ああ。今日は朝だけだったからよ」

「そうなんですか!あ。じゃあ今暇ですか?」

「……まぁ」

「良ければでいいんですけど、一緒にお茶しませんか?凄く美味しいケーキがある喫茶店見付けたんです。静雄さん、甘いのお好きでしたよね?」

俺と話しているだけなのに一体何が楽しいのか、ふわふわと砂糖菓子みたいに甘く柔らかい笑みを浮かべて、少年は問い掛ける。

「いや、でもよ…その…」

迷惑じゃ、ねぇのか。俺と一緒に居れば必然的に好奇の目を向けられ、そして避けられる。こいつにまで迷惑はかけたくない。駄目だ、こんな純粋で優しい無垢な子供を俺の面倒事に巻き込んではいけない。そう俺が思考を巡らせていると、少年は不思議そうに小首を傾げて、意味が分からないというようにどうしてですか?と問い掛けた。

「は?、いや、だからだな、」

「むしろ、僕の方が迷惑じゃないですか?」

少し寂しそうに微笑む姿を見て、ずきりと心臓が痛む。痛い、痛い。頼む、頼むから、そんな顔しないでくれ。

「すいません、図々しく話し掛けたりしちゃって…迷惑、ですよね」

ずきり、ずきり。痛い。痛い。そんな風に笑うな。笑うんじゃねえ。傷、付けた。まただ。またやってしまった。暴力ではない、言葉で傷付てしまった。
抱きしめる事が出来ればいいのに。この腕でその小さな身体を包み込んで、優しく優しく、抱きしめてやれれば。そうしたら、君は笑ってくれるかもしれない。何時もみたいに、ふわふわと柔らかく笑って、甘ったるい声で俺の名前を呼んで。

――でも、駄目だ。俺にこの子供に触れる権利などない。今まで沢山のモノを壊し、沢山のヒトを傷付けてきた汚れた手。触れては、いけない。大切なんだ。壊したくない。キラキラと憧憬の眼差しを向けられるのも初めてだったし、そんな風に柔らかい笑顔を向けられたのも初めてだった。帝人の瞳に映る自分は何故だか自分ではないようで、青い瞳の中で、笑っている自分が見える。笑い方なんて、すっかり忘れてしまったと思っていたのに。

「――…じゃ、ねぇよ」

「……え、」

「迷惑なわけねえだろ!!!」

「!?し、しずおさ、」

無意識だった。勝手に身体が動いて、帝人を抱き寄せてしまっていた。やっちまった、と思ったけれど、初めて触れた少年の身体は想像していたよりもずっと細くて、小さくて、温かくて。泣きたく、なってしまった。身体が小刻みに震える。抱きしめた小さな身体が、酷く、愛おしい。

「…すまん、悪ぃ…」

名残惜し気に身体を解放してやると、帝人は俯いて、小さく呟いた。

「……ず、るい」

「……は?」

「……謝らないで、ください」

弱々しい震えた声でそう言うと、帝人は混乱する俺を余所に、伏せていた顔を上げて勢い良く言い放つ。顔を真っ赤に染めながら。

「僕はそう簡単に壊れたりしませんよ!!!」

微かに潤む青い瞳映り込む自分の顔が驚くほど間抜けで、情けなくて、帝人はこれまた更に混乱している俺の腰に結構な力で抱き着いた。

「え、は?ちょ、おま、みか、え?」

完全にパニックに陥ってしまって全く言葉が出て来ない。なんだこれは。一体どういう状況なんだ。訳が分からない。ただ感じるのは、温かい人の温もりと、じんわりと服に浸みていく雫の冷たさだけ。俺の胸に顔を押し当てて、帝人は泣いていた。嗚呼また傷付けてしまったのだろうか。どうしよう。どうしたら、君は笑ってくれるのだろう。

「恐れてるだけじゃ、なにも、始まりません、よ」

泣いているというのに酷くはっきりとした声音でそう言うと、帝人は更に抱きしめる腕の力を強める。

「傷付けて、離れていってしまうのが、怖いのなら、僕が、僕がそばに、います」

あなたのそばに、ずっと。それは甘美な響きを持って、俺の心に染み渡る。じわり、じわりと。心が、歓喜に震えているのが分かった。

「ず、っと?」

「はい。貴方が、寂しくないように」

「み、かど…」

好きだ、自然と零れた言葉に帝人は少し笑って、はい。好きです、だから、そばに居させてください、と言って、また、泣いた。

「そばに、いてくれんのか…?」

「は、い。静雄さんが、望むの、なら」

そろりそろりと、恐る恐る帝人の小さな背に手を伸ばす。触れたら、今度こそ壊してしまうのではないだろうか。それだけは、嫌、だ。

「壊れ、ませんよ、」

触れる事を躊躇っている事に気付いたのか、帝人は大丈夫です、絶対に壊れませんと呪文のように繰り返して、だから、怖がらないで、と、俺の胸に押し付けていた顔を上げて、緩く、笑った。優しく優しく、頼りなさげな背中に腕を回す。壊れないように、壊してしまわないように、傷付けないように。

「貴方は、優しい人、です」

「んなこと、ねぇ…」

「優し、すぎるから、」

優しいのはお前だろうと囁いて、最小限の力で抱きしめる。嗚呼、人って、こんなにも優しい気持ちになれるものなんだな。優しい、温かい。ふわふわと、ひだまりみたいに心が暖かい。

「愛して、る」

「はい、」

「だから、おれを、あいして」

泣きそうにそういう俺に帝人はくすりと笑みを零して、俺の好きな、砂糖菓子みたいに甘い笑顔で、愛してます、と、囁いた。


あいしてあげるよ

(ずっと、あなたのそばで、)


作品名:accarezzare 作家名:しずく