かえりたいばしょ
逃げださなければこんな息切れしなくても追いかけられたのかもしれない
電車を降りてホームを駆けて引き返しの電車に乗って愛子ちゃんを探さなくてもとなりに愛子ちゃんは居たのかも知れない。
あの夏だって車から降りて彼女と逃避行していたら愛子ちゃんが瞼を伏せて涙を落とすことも無かったし僕が世界に見限ることもしなかったかもしれないとプンプンは首元を覆う赤と白のマフラーをギュっと握りしめる。
( 愛子ちゃん )
中学生のときも愛子ちゃんと手を繋いで下校することになるのは矢口先輩じゃなくてじぶんだったのかもしれないと、ただそんな事ばかり考える。目の前に通り過ぎる女が愛子ちゃんだったら、肩がぶつかって申し訳なさそうに軽く頭を下げる女が愛子ちゃんだったら。愛子ちゃん、
( 君の世界は 綺麗な色をしていますか? )
( 愛子ちゃん )
( 僕はこの濁った世界で 生きていく自身がありません )
( 愛子ちゃん )
( 僕はもう 動けません )
ハルミンがいて愛子ちゃんが居てみんなが居て無知だった自分が穏やかに過ごしていた小学生のあのころに僕は心を忘れてきてしまったみたいで、
プンプンは喧騒が疎ましくなって瞼を閉じて耳を両手で塞いだ。