月の夜
東の空に満月が登ってきて、しばらくたった頃合いだ。校舎をを出て、東の空を見やると、まん丸の白く輝く満月が浮かんでいた。一筋の雲もない。
帰る方向に顔を向けたら、百目鬼が立っていた。
「おい」
百目鬼のやつめ、また、約束忘れてる。
「おい!」
「返事して欲しかったら、な・ま・えって言ったよな。」
「(むぅ・・)四月一日」
「なんだよ。」
「(なんだよ・・は返事じゃないよな。返事なら『はい』だろ。)今日は、送ってく。満月のときは、妖、多いんだろ?」
「あ、ありがとう。」
こいつに送ってもらうのは、確かにありがたい。
人を呼ぶときは名前って百目鬼に約束させたときに、ありがたいときにはありがとうって約束させられた。
月夜に歩くと、明るくてびっくりすることがある。影はくっきりできるし、物の色まで分かることがある。
でも、これは百目鬼と知り合う前は分からなかったことだ。あのころは、満月の夜なんて、怖くて下を向いたまま走りぬけていたから。
「今晩は、何食べようかなあ。」
「侑子さんって、晩飯のリクエストとかしないのか?」
「むちゃくちゃわがままなリクエストする。でも、今日は、バイト休みなんだ。出張とか言ってたから、今頃どっかで妖しい仕事でもしてるんじゃないかなあ。」
「ふ~ん。」
「おい、今日おまえの部屋に行っていいか?」
「なんで?」
「満月の夜に、ひとりにしたくない。」
なんで、こいつはこんなにあっさりとこういうこと言うんだろう。俺には絶対無理だ。ホントは、ここでありがとうと言うところだけど、晩飯でごまかすか。
「なあ、おまえ何か食べたいものあるか?今、言え。材料なかったら、帰りに買わなきゃなんねえからな。」
「何でもいいのか?」
「常識の範囲でならな。」
「じゃあ、豚しゃぶがいい。日本酒も飲みたい。」
「おまえ、未成年のくせに何言ってんだ。酒は、侑子さんがらみの時以外厳禁だ。」
「ちっ。」
「おまえなあ・・・。なら、満月に免じて1杯だけだぞ。」
「おぉ。(満月って、使える・・)」
密かに、またいつか満月をネタに四月一日にいろいろせがもうと、百目鬼が思ったかどうかは、当の満月しか知らないのでした。