彼は死んでいくのだ
埋もれた瓦礫の下に誰がいるのか知っている。
人類の王とも呼ばれた、ただ一人「先」に足を踏み入れた怪物。
彼女はその怪物の幼馴染だったということを祥は先程知ったばかりだ。
教室の片隅で、いつも一人でいた少女。ぽつりとしているはずなのに、まるでさみしさを感じさせない――それどころか周りに人がいることなどまるで気付いていないような彼女に、ことあるごとにちょっかいを掛けていたのはおそらく憐み以外の何物でもなかった。どうやって入学試験を潜り抜けてきたのかも首を傾げるような成績も、その一因だったように思う。
けれど、彼女の頭の回転が悪くないことは知っていた。仕掛けるいたずらの意図はたいてい見抜かれてささやかな意趣返しばかりくらっていた。
だからこそ手を出すことをやめられなかったのだ。
それでも、今日は外れ籤を引いたと思ってしまった。テストの点数で測れない彼女の資質を知っていたのに、見くびっていた。
完璧な王が待っていたのは彼女一人で、その彼女に助けられたからこそ自分はこの奥津城まで来る事を許された。
ただの、彼女の守人として。
自分は相手にすらされなかったのだ。
そして少女は幼馴染に再会し、あらたな怪物の目覚めを見届けた王は自らの命を手放した。
この瓦礫の下で、おそらく、彼は幸せそうに微笑んでいることだろう。