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無神論者の戯言

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「シズちゃんさぁ、神様って見た事ある?」





喧騒の絶えない池袋。ある一角。

人通りの無い路地裏を駆け抜けていた黒髪の青年ー折原臨也は、
突然ピタリ、と足を止めて振り返ると、自身に迫る人影に向かってそう問い掛けた。



「…あ”?」


”シズちゃん”と呼ばれた金髪の青年ー平和島静雄は、
突然動きを止めて此方を振り向いた臨也に、怪訝そうな表情を浮かべながら、同様に立ち止まった。

同時に、片手で高々と掲げていた道路標識を一旦地面へと下ろす。
どぅ、と地面が鈍い悲鳴を上げた。



「…手前、”無神論者”とかいうヤツなんじゃねーのかよ?」

「勿論、俺は神様なんて信じてないけどさ。シズちゃんは違うだろ?だから聞いてるんじゃないか。
君は”本物の神様”を見たことがあるか?ってね。」




静雄がこの世で最も嫌う人間である折原臨也は無神論者である。

不本意且つ不愉快極まりないが、臨也とは学生時代からの腐れ縁のような関係である静雄は
彼が常々そう公言している事を知っている。
だからこそー
その臨也が、神様がどうこう、という類の話を持ち出すことは珍しい事のように思えた。






「神様…ってぇのは、あの世とかにいんだろ。
なら生きてる俺らに見える訳ねーんじゃねーのか?」


静雄がそう結論を出すと臨也は、彼が”普通に”自分の問いに答えたからか、それともその答えの内容についてか、あるいはその両方なのかー
驚いたように深紅の瞳を一瞬大きく見開いて、
それから声を上げて笑い出した。




「あはははっその通りだ!
どうしたのシズちゃん、今日はやけに冴えてるんじゃない?」

「…ケンカ売ってんのか手前は」


からかうような臨也の口調に、静雄は苛立ちを隠さずに凄むが、
気にしたようすもなく、もうケンカしてるでしょ、と臨也はさらに笑う。



「まぁつまり、俺はもちろんシズちゃんも…きっと世界中の誰も、神様の姿なんて見た事ないんだよ。」


先刻までけらけらと無邪気ともいえる笑顔を浮かべていた臨也は突然、す、と表情を消し、
一変して、にやり、と形容するに相応しいような皮肉な笑みをそこに浮かべた。

「それなのにどうして…人は絵画や彫像に神の姿を描く事が出来たんだろうねぇ?」

「……?」

臨也の言わんとすることが分からず静雄は沈黙する。
臨也は尚も冷めた口調で話し続ける。



「それらはどうして…みんな人間の姿をしているんだろうねぇ?」



疑問系の言葉を投げつけてはいるものの、臨也は答えを求めていないようで、
クルリ、と軽やかに身体を回転させ、他を嘲笑うような色を含ませながら言葉を紡ぐ。



「崇め、讃え、敬うべき存在である神が、自分達人間と同じ姿をしているだなんて…

…人間って、なんて自分勝手な生き物なんだろうねぇ?」



言い終わると同時、臨也は忍ばせていたナイフの切っ先を静雄へと向ける。
照準は、彼の左胸。

それを見て静雄は、咥えていたタバコを地面へ押し付け靴先で揉み潰し、笑う。


「ンな事ぁ、手前が今、ここで死んで、神様に会ってくりゃー解決すんじゃねーか?
なぁ、臨也くんよぉ…」

携えていた標識を再び空へと振り上げた静雄は、怒りの感情を静かに迸らせ、ギロリと凶悪な瞳で臨也を睨みつける。



「やだなぁ、シズちゃん。」


それに怯む事もなく臨也は、口元に深く深く笑みを浮かべると
殊更に明るく、言葉を発した。





「俺は、無神論者だよ?」





end
作品名:無神論者の戯言 作家名:壱村