ある午後の閑暇話題
「犬と猫」
リタが顰め面をしながらそう言った。
カロルが不思議そうに視線の先を辿ればそこにはレイヴンとユーリが道を歩いていて、二人して今日の買出しについて何か言い合っているようだった。
窓越しに目で追って二人の姿が見えなくなると、カロルは飲みかけのオレンジジュースをストローでずずっと飲み、まだ顰めた顔をしたままのリタを見て口を開いた。
「ユーリとレイヴンが?」
「そうよ」
当たり前でしょ、というかのようにリタは少しだけ胸を張る。
そこで威張るのは何でなの、とカロルは思いながらもう一度オレンジジュースを飲んだ。
「犬と猫・・・。リタにはどっちがどういうふうに見えるんです?」
「ユーリが猫でおっさんが犬」
「ふふ、まあそれが妥当よね」
エステルがまだよく話の意味を理解していないかのようにことん、と首を傾げた。
ジュディスは手を組んでその上に顎を乗せて、楽しそうに笑う。 リタに、どうしてそう思ったのかしら、と続けた。
「だって、心臓を魔導器にされてまでアレクセイに付き従ってたのよ!?」
「人間関係は複雑なものよ」
「それでも、よ! あたしには到底理解できない何かがあったとして、まあものすごく興味ないけど、でもそれってどう考えても犬っぽいわ」
「そこで“犬”って結びつけるリタがわかんないよ、ボク」
カラン、とグラスの中の氷が鳴った。
カロルはストローでぐるぐると中をかき混ぜながらリタの話を聞いて、エステルは音も立てずに紅茶を一口飲み、カップを上品な仕草で置いてから、リタは行動とか性格を照らし合わせてるんですよね、とほんわりと笑った。
「ユーリが猫って言われると、ああそうかもって思いますし」
「しかも野良よ」
「いいんじゃないかしら。ぴったりだと思うわ」
ジュディスは楽しそうに笑って、窓の外を見つめる。
さきほど話題の二人が消えていったほうを一瞥した後、オレンジジュースをストローでかき回すカロルを見て、笑う。
「氷溶けたかしら?」
「うん」
「でもどうして急にそんなことを?」
なんでもないようなやりとりを横目で見ながら、エステルはリタに訊ねた。
顰めた顔はまだそのままで、何が気に入らないのかエステルには分からない。
「単純にそういうふうに見えたのよ」
「あら、でもそんなふうにどうでもいいような話を振ってくるリタは珍しいわ」
「……なんだか、どうでもよくないような気がしたのよ」
照れたようにそっぽ向くリタにジュディスは小さく笑い、エステルがリタは本当に優しいですね、と言うと更に顔を真っ赤にさせて、怒鳴った。 他の客もいるので声は抑え気味なところがまたおかしくて、ジュディスは笑いを堪えた。
カロルは溶けてなくなった氷に満足しながら、最後の一滴まで残さずにオレンジジュースを飲んで、そうだね、と声にする。
「……何がよ」
「リタの言ったこと」
「?」
「どうでもよくないって」
だってそれってつまり、と続けようとして止まる。
エステルは紅茶を飲みながら、止まったカロルに首をかしげ、リタは考えながら喋らないの、と呆れたようにりんごジュースを飲んだ。
カロルはあー、うー、と言いながら言葉を選んでいるようで、それでもゆっくりと待っていると一人で納得したように、無邪気に笑った。
「ボクらそれぞれぜんぜん違うけど、違ってもちゃんと支えあって生きてるってことだよね」
それってすごいよなぁ、と一人で感慨深く浸っているカロルにエステルは柔らかく肯定して、リタはまた恥ずかしそうに顔を赤く染めた。
そんな恥ずかしいことよく言えるわね、という声を聞きながらジュディスは微笑ましく笑って、扉から入ってきた見慣れた二人の姿を見つけ、犬と猫が帰ってきたわよ、と楽しそうに告げた。
あ る 午 後 の 閑 暇 話 題
(でも犬と猫ってどうなんだろ)
(なに、まだ言ってんの? っていうか文句あんの?)
(あ、そっか。リタは猫が好きなんだね)
(ちょっ、別にあたしはユーリが好きなんていってないわよ!)
(……ボクもユーリとは言ってないよ)
(……!!)