言った人
「バーン様は俺を心配しすぎだったんですよ」
「バーン様とか言うなっての。もうただの幼なじみだろ」
晴矢は露骨に嫌な顔をした。彼はエイリア学園での事が終わってからというもの、バーン様と呼ばれる事だったり、敬語を使われたりするのを拒否するようになった。そんな彼に心の中だけで、癖なもので、と付け足して、茂人は曖昧に微笑んだ。
「なあ茂、俺このままで良いと思う?」
「このまま、って?」
「変わらないでいることは可能か、って話。変わらずにいたい、って話。」
唐突に晴矢が切り出した話に茂人は面食らった。今までそんな話は考えたことが無い。
「…無理なんじゃないかなあ」
頭を過ぎったのはエイリア学園となったとある日の自分と彼だった。彼が気づいているかは果たして定かではなかったが、茂人はその日にある種の諦めにも似た事実を痛感していたのだった。当たり前だが彼には言っていない。かつてバーンとヒートという存在になった自分達には、視認こそできないが、確かにヒートから彼への僅かかは知らないが敬虔という線が引かれたのだ。忘れもしない日にバーン様と違和感なく呼んだ自分を、茂人は殺したくなった。
そういうわけで、自信なさげに言ったであろう先程の言葉にも、一応茂人なりに筋道立ててつくった考えがあったのだ。もう自分達は変わってしまっている。恐らく彼が言ったことが不可能だと思えるくらいには。晴矢が言っている変わらないの始まりは、十中八九お日さま園だからだ。
「俺は変わりたいと思うよ」
少し考えた後に言った。変わらないことは不可能だ。それに、ついこの間痛い目を見たばかりだ。苦々しい記憶。今、今まであったことと、これからを茂人が思って出した一先ずの答えが先程の言葉だった。
「ふーん…」
(晴矢、)
拒絶されるかもしれない。
恐る恐る晴矢を見れば、彼の瞳が相槌と共に、期待と希望で笑っていた。つられて笑い、茂人はひどく安堵し喜んだのだった。